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「お骨上げの最中に、おばあちゃんの腕がぶらーんぶらーんって…」元火葬場職員が経験した“笑えない恐怖体験”

元火葬場職員・下駄華緒さんインタビュー #1

2022/04/16
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「こんな仕事しかできない人間になるぞ」と指をさされたり…

――偏見?

下駄 そうです。例えば、火葬場内で走り回っている子どもを遺族の方が注意する時、「人に迷惑かけているとこんな仕事しかできない人間になるぞ」と指をさされたり……。

 ほかにも、僕が働く火葬場の近くに住んでいる方から「お兄さん火葬場で働いているでしょ?」と声をかけられたこともあります。僕がその辺のコンビニで働いている人だったら、多分声をかけなかったと思うんですよね。

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 火葬場職員が“特異”な仕事だと思われているから、いつも火葬場に出入りする僕の存在が気になって声をかけてきたはず。小さいことかもしれないけど、それもこの仕事に対する偏見だと思うんです。

――“無意識の偏見”みたいなものですね。

下駄 ネット上ではいまだに「身分の低い人がやる仕事だ」と言ってくる人もいますし。実際にはコンビニやスーパーで働くのとあまり変わらない、身近な仕事の1つだと思っているんですけどね。

 それに僕は、火葬場が大事なインフラの1つだとも思っているんです。例えば、東京では年間10万人前後の人が亡くなります。1日にしたら約300人。でも日常生活で、例えば道路とかにご遺体が転がっていることなんてあり得ないじゃないですか。それはつまり、火葬場がしっかり整備されている証拠なんです。

 人が亡くなるのは自然なこと。だから火葬場もそこで働く人も、別に特別ではない。“普通”なんです。

 

――実際に働いていた下駄さんは火葬場もそこで働く職員も“普通”だと認識されていますけど、そう思っていない人もまだまだたくさんいるんですね。

下駄 そうですね。時々、火葬場職員に憧れて応募してくる方もいるのですが、ある意味、彼らも偏見を持っているのかもしれません。

 本木雅弘さん主演の映画『おくりびと』が流行った時があったじゃないですか。あの作品自体は納棺師を題材にしたものなんですが、映画の影響で火葬場にも「人の最期を見送る仕事に感動しました」という就職希望の方が増えたんです。

 でも映画では、人の死のきれいな部分しか映していないんですよね。エンターテインメントなのでしょうがないのですが……。