アジア人へのヘイト暴力とStop Asian Hate運動の発足
コロナ禍でのアジア人に向けられたヘイトがこれだけの件数があったのも、いじめても文句を言わないモデルマイノリティのイメージがあったからという理由も大きいと分析されています。コロナウイルスが中国の武漢で発見されたことで、中国人(あるいは中国人のように見える人)は新型コロナウイルスに感染しているのではないかという疑いや、パンデミックが続く責任を中国人が負うべきだといった考えを理由に、アジア人が暴力を受ける事件が多数発生しました。
サンフランシスコで84歳のタイ系アメリカ人男性が地面に押し付けられ殺害された事件や、アトランタでアジア系のスパが3軒襲撃され、アジア系女性6人を含む8人が銃殺された事件など、パンデミック中にアジア系に向けられたヘイトクライムは2年弱の期間で1万件を超えました。
しかし、パンデミックが起きたのが、日系アメリカ人の収容が合法であった1940年代や、『ティファニーで朝食を』が作られた1960年代、『Sixteen Candles』が製作された1980年代でなく、2020年代で良かったとも思わなくもありません。2020年にはパンデミックのさなかのアジア人へのヘイト暴力に対抗して、「Stop Asian Hate」運動が発足され、多くの非アジア人の賛同も得られたからです。
「Stop Asian Hate」運動と「Black Lives Matter」運動
Stop Asian Hate運動が得たモメンタムには、Black Lives Matter運動が大きく貢献したと感じています。Black Lives Matterとは無実の黒人が警察によって殺害される事件が相次ぐアメリカで、警官からの黒人差別への抗議運動ですが、特に2020年5月のジョージ・フロイド氏殺害事件がきっかけとなり、多くの支持者を得ました。
黒人であるジョージ・フロイド氏が無抵抗で「息ができない」と何度も訴えたにもかかわらず、警官がフロイド氏の首に膝をかけたことで圧迫死する映像は、黒人だけでなく多くの人の怒りを呼び起こし、他人種と比べて4倍の頻度で警察に暴行される黒人が晒される構造的人種差別に対して絶対に許容しない、そして人種差別を受けている人のAlly(本当の意味でのサポーターになる)であることがあるべき姿だとはっきり掲げられたことが、黒人差別だけでなく、アジア人へのヘイトクライムの対応にも拡張されたところがあったと思います。
アジア人へのヘイトクライムの報道があると、私の職場の部署のチーフは「どうしてる? 心配なときや自分のアイデンティティについて支持を受けられていないと感じたらいつでも言ってほしい」と声をかけてくれたり、友人から「今アメリカで起こっている人種差別は続いてはならない。もしあなたが嫌な思いをすることがあれば、いつでも話してほしい。子ども達ともアジア人とは、日本人とは、とあなたの家族のことを話して考えたよ」と人種差別に関する子どもたちへの教育の会話を報告してくれたりしました。また、街中にStop Asian Hateと書かれた看板が貼られました。
100年以上にわたって「モデルマイノリティ」と呼ばれ、差別を容認されてきたアジア人への対応がここまで進化できたのは、長年のアジア人の努力と問題提起があったからであり、アメリカに住む日本人の私は、先人の努力に本当に感謝しています。この社会変化と共にアメリカの中でのアジア人男性の表象は大きく変わり始めました。