芸歴が長くても、MCやご意見番のポジションにはおさまらず、若手芸人と同じようにネタ番組ではアグレッシブなショートネタを披露し、ひな壇に座り、いろんなロケにも顔を出す「おじさん芸人」。

 数年前からじわじわと注目されていたが、『M-1グランプリ 2021』で合計年齢93歳(当時)の錦鯉が優勝を飾って以降、おじさん芸人の勢いが加速している。

錦鯉・長谷川「ラストイヤーは56歳」発言

 錦鯉の『M-1』優勝がお笑い界にもたらしたものは、「何歳になっても諦めなくて良い」とチャレンジし続ける気持ちと、年齢的なリミットの意識を崩したことである。

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 雑誌『Meets Regional No.405』(2022年/京阪神エルマガジン社)のなかで藤崎マーケット・トキは「芸人ってライバルも多いし、後輩が先に売れたら不安になることもある。5年目くらいまでガンガン行っていたけど、賞レースに全然引っかからないと10年目くらいで焦りだし、区切りがいいからとその辺りで辞める人も多い」と語っていた。

史上最年長でM-1グランプリ優勝者となった長谷川雅紀 ©文藝春秋

 だが、錦鯉の長谷川雅紀は優勝インタビュー時「諦めないでやってきて良かったです。僕はラストイヤーが56歳で、その前に今年で決められて良かったです」とコメント。この「ラストイヤーは56歳」というワードがクセモノでもあり、なかなか結果が出なくても「錦鯉ですらラストイヤーは56歳だったんだから、まだ大丈夫」と自分に言い聞かせる要素になり得るのだ。

 また2019年3月13日放送『水曜日のダウンタウン』(TBS系)では、ダウンタウン世代のなかでもひときわ異彩を放っていたリットン調査団が、芸歴34年目(当時)でもアルバイトで生計を立てながら納得できるお笑いを追求する様子が映し出された。現在、藤原光博は59歳、水野透は61歳だがそのスタンスは変わらない。彼らのストイックな姿も、芸人にとっては「何歳になってもがんばってみよう」と励みになるかもしれない。

 そうやって「芸人を続ける材料」が増えてきたことで、区切りを設けない、もしくは区切りを伸ばす芸人がこれからますます多くなり、その存在が目立つようになるのではないだろうか。