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 この時間になるとメディアがさらに増え、里さんたちもカメラに囲まれていた。そんななか、“事件”が起きた。里さんが私を発見すると、「あなたも一緒に入って!」と言い、腕を掴んで私を引き込んでしまったのだ。

 まさか、写真を撮る側の人間が撮られる側になるなんて、現場の誰も想像していなかったし、求めてもいなかっただろう。もちろん私もだ。盛大な巻き込まれ事故になったが、とてもいい思い出が残った。

大井支配人と里さんの写真撮影に、なぜか筆者(右)もご一緒させていただいた

「55年間、本当に、本当に……」

 17時30分、いよいよ最後の時が迫ってきた。名残りを惜しむ涙雨のなか、セレモニーが始まった。まずは豊永社長から観光協会へ、名阪上野ドライブインのマスコットキャラクター「忍にゃん」の贈呈式が行われた。

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 18時、大井支配人が「55年間、本当に、本当に、本当にありがとうございました」と挨拶し、名阪上野ドライブインは営業を終えた。その後、蛍の光が流れると、ドライブインの前に並んだ店員さんたちの中には、涙ぐむ人の姿もあった。

最後のセレモニーは雨が降るなかで行われた
蛍の光が流れると、店員さんたちの中には涙ぐむ人も

 18時15分、閉店後の店内では、従業員さんたちが記念撮影をしていた。私は自分が写真を撮ることよりも、従業員さんたち自身の思い出の写真を残してほしいと思い、皆さんからスマホを預かって積極的に写真を撮った。

 私は過去20年で何度も利用し、また今日1日密着して寂しい思いが強くなった。でも従業員さんに比べたら、そんなのは比べ物にならないだろう。

 最後まで皆を引っ張っていた稲森さん。社長から「皆さんの人生に多大な影響を与えてしまった。ご迷惑をおかけして申し訳ない」との言葉があると、稲森さんが仲間に向かって「ここで働けてよかったですか?」と問いかけた。

閉店後の店内での記念撮影

 涙ながらに全員が首を縦に振っていた光景が、とても印象に残った。そして稲森さんの「またどこかで!」という一言で締めくくられた。

 時代の移り変わりでドライブインが消えゆくのは、仕方がないことなのかもしれない。しかし、そこに人がいる限り、最後はいつだって寂しい。

 名阪上野ドライブインは無くなっても、多くの思い出は色褪せない。ありがとう、名阪上野ドライブイン。またどこかで!

 

撮影=鹿取茂雄

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。