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「寂しいですね…」開業から55年、全国の運転手を支え続けた“名阪上野ドライブイン”がひっそりと迎えた最後の日

2022/04/10

genre : ニュース, 社会,

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 レストランの前では「懐かしの『名阪上野ドライブイン』」と題して、開業当初の写真などが展示されている。それを一生懸命、携帯電話で写真に収めている高齢女性の姿があった。

 駐車場に、この日はじめての観光バスが入ってきた。売店の人が出てきて、添乗員さんと親しそうに話している。バスが出発する時は、大井広行支配人が手を振って見送っていた。

観光バスに手を振る大井広行支配人

“最後の挨拶”に訪れる人たち

 13時、朝から降り続いていた雨が一時的にやむと、以前ドライブインで働いていたという里美代子さんが、大井支配人に挨拶に訪れていた。85歳になる里さんは、今日が最後と知り、娘さんに車で連れてきてもらったという。

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 大井支配人に花束を手渡す瞬間を目撃した私は「皆さんの写真をお撮りしますよ」と声をかけた。その後、里さんと連絡先を交換し、写真を郵送する約束をした。

大井支配人に挨拶に訪れていた里さん親子

 13時30分、再び雨が降り始め、雨脚が強くなった。レストランで食事をすることにしたが、最後だから奮発して2550円の伊賀牛ステーキ膳を注文した。

 14時30分、レストランの営業が終了した。この時間になると、別れを惜しむ人たちが多く訪れるようになり、次第にメディアの数も増えてきた。

お昼はレストランで2550円の伊賀牛ステーキ膳を注文した
14時30分にレストランの営業は終了した

「おおきに! またどこかで!」

 売店で「ありがとうございました! おおきに! またどこかで!」と声を張り、ひときわ輝いている女性がいた。この道41年の大ベテラン、稲森恭枝さんだ。

 稲森さんに最後の挨拶をするために来店する人が絶えない。レジや店先での販売、観光バスの対応まで、ドライブインにおけるあらゆる業務を知り尽くし、切り盛りしていた。

この道41年の稲森恭枝さん
観光バスの添乗員にも最後の挨拶をしていた

 そんな稲森さんだが、閉店を機に引退されるという。「もう歳ですから」。いつも気丈に振る舞う稲森さんの目が、一瞬うるんだように見えた。

 15時30分、里さんが再び花束を持って現れた。先に訪れた時は娘さんが用意した花束だったが、それよりも大きな花束を買ってきて、大井支配人に渡そうとしていた。