1ページ目から読む
2/2ページ目

瀬戸内寂聴は鬱とどう戦ったのか?

 90歳まではよく人に、「どうしてそんなにお元気なのでしょう」と訊かれる度、「元気という病気なんです」と答えていた。

 ©文藝春秋

 ところが90を越してから、あちこちが悪くなり、入院したり手術したりすることが多くなった。入院する度、病院の食事のまずさや、不便さにうんざりして、仕事の出来ないことに憂鬱になる。気がつくと、まさしく鬱になりかけている。あわてた私は、鬱をよせつけまいと、あれこれ対策した。

 まず自分が愉しくなることを見つけること。私の場合は、仕事をすることだ。それが病気で出来ないのが、今の鬱の原因なのだ。仕事の結果として本が出ること。それも今は出来ない。その時、ふっと思いついた。

ADVERTISEMENT

 そうだ、俳句の本がまだ出ていない!

 俳句は、元来、才能乏しく下手なので、本を出すなど考えたこともなかった。しかし、このまま死んだら、あのわずかの私の俳句はどうなるか。よしっ、これは自費出版で出そう。たちまち私の決心はまとまった。題は『ひとり』(深夜叢書社)。

 出来てみると、思いの外のすてきな本になり、評判もなかなかよろしい。いつの間にか私の鬱はどこかに消えてしまっていた。