作家・瀬戸内寂聴さんにとって「特別な存在」だったのが66歳年下の秘書の瀬尾まなほさんです。まなほさんの処女作を見たときは、思わず「ヒヤァー」と声をあげたほど。
当時の様子を、寂聴さんが編集長を務めた「寂庵だより」の随想をまとめた『遺す言葉 「寂庵だより」2017‐2008年より』(「まなほの処女出版」)から一部抜粋。(全3回の2回目/#1、#3を読む)
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まなほの初出版に思わず「ヒヤァー」
私の秘書の瀬尾まなほが、この度、生れて初めての本を出版した。出版社は光文社で、出版局長の田邊浩司さんがまなほの『寂庵だより』の「まなほレポート」を読まれて、本にすることを思いついて下さった。あれよあれよという間に話がまとまり、「ヒヤァー」と思わず私が声をあげるほど立派な本が出来上がった。
予想していたよりずっと厚く、269頁の本である。表紙の5分の4くらいの大きな帯がついていて、まなほの笑顔と、それより以上に嬉しそうな笑顔の私が、身を寄せあっている。私は紫の道衣を着て、まなほは真白の袖なしのワンピースを着ている。御自慢の美貌は、これ以上ないという晴れやかさである。
毎日、キイキイ私を怒りつけているヒステリーのまなほと同一人物とは思えない。そう感想を言うと、そこにあった棒を握って、私をぶとうとするまねをしておっかけてきた。私は家じゅうをドタバタ逃げ回ったが、何しろ脚の長さがちがうので追いつかれて、棒でお尻を叩かれそうになった。そこで、全身の力でまなほの脚にしがみつき、私の短い脚で蹴ってやった。まなほが「イタイ!」と泣いた。寂庵がゆらぐほどの激戦である。
疲れきって、ふたりはどちらからともなく戦いを止め、改めて仲よく新刊本を眺め直した。実物以上に可愛らしい2人の笑顔を撮ってくれたのは、当代、女性を美しく撮ることでは最高の篠山紀信氏が、帯も中身もすばらしい写真で飾って下さった。
篠山さんが大好きで、一生に一度でいいから撮っていただきたいと言っていたまなほの興奮したこと!