シカ科の特定外来生物の「キョン」は、農作物を食い荒らす害獣として知られる。大繁殖している千葉県では駆除に躍起になっているが、いま注目されているのはキョンを食糧にする動き。つまり、駆除したキョンを食肉に加工して有効活用するのである。

 しかし、キョンといえば、小型のシカのような見た目とは対象的に、「ギャー!」という不気味な鳴き声でも有名だ。あの声を聞くかぎり、キョンの肉がおいしいとは思えないが……。

 はたしてジビエとしてのキョンはどんな味なのか。実際に食べてみるために、キョンが大繁殖している千葉県南部のジビエ販売店に行ってきた。(取材・文=押尾ダン/清談社)

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キョンの肉は脂身が少なく非常にヘルシー

 千葉県南部の君津市にある「猟師工房ランド」は、県や市から許可をもらい、キョンを食肉に加工して販売している日本で唯一といっていい店舗だ。廃校になった小学校の跡地を活用した敷地内にはバーベキュー場が設置され、イノシシやシカ、タヌキといったジビエ(野生鳥獣の肉)を焼いて食べることもできる。

 

 そのジビエのラインナップに3年前から新たに加わったのがキョンだ。価格は部位によって異なるが、100グラムあたり810円から1760円。ちょっと高い印象だが、キョンは体高50センチ、体長1メートルほどしかなく、1頭からとれる肉は2~3キロ程度。加工する手間とジビエとしての希少性を考えれば妥当なのかもしれない。

人気の部位はやっぱりヒレやロース

 今回取材班が食べてみたのは、ヒレやロースに次いで人気の高い部位のチョップ(骨ごとカットしたロース)とハツ。調理する前のキョンチョップはご覧のとおりの肉々しさで、ラムチョップやマトンチョップと比べると脂身が極端に少なく、一見して非常にヘルシーな食材であることがわかる。

キョンチョップは100グラムあたり1123円

 キョンチョップは猟師工房ランド内にあるジビエバーベキュー場でそのままじっくり炭火焼きにし、ハツはプチトマトやピーマンと一緒にオイルで煮込んでアヒージョにした。

こうして見るとおいしそうだが、はたしてキョンの肉の味は?

 さて、キョンの肉はどうだったのか。

 結論からいうと、想像よりもはるかにおいしかった。脂身がほとんどない赤身なので固そうに見えたが、噛んでみると意外に柔らかく、かといってパサパサしているわけでもない。

 ジビエにありがちな臭みもなく、ラムやマトンのチョップよりも全然おいしいと感じたくらいだ。正直いって、「ギャー!」と不気味な鳴き声を発する獣の肉にはとても思えなかった。

炭火焼きにしたキョンチョップ。想像以上のおいしさだった

 ただし、食べてからしばらくすると、口の中に微妙な臭みが広がり始めたのが気になった。胃も少し気持ち悪い。いくらおいしいといっても野生獣なので、家畜の肉とは違うのである。