みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回はテレビ朝日アナウンサー・大下容子さんからの人生相談に回答するスペシャル対談をお届けします。(前後編の後編/前編を読む)
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能力が低い人ほど自分を過大評価する「ダニング=クルーガー効果」
大下 確かに、私はまとめの一言は断定的に言わないようにしています。「これはこうでこうなんです」と言い切ってしまえるほど物事を分かっているわけでもないですし、そこは観ている方が考える余白を残してもよいのではないかと思うので。
中野 『ワイド!スクランブル』の視聴者は、そういうところに好感を持つのではないでしょうか。多くの場合、断定的に結論を言うことをテレビでは求められがちではありますけれど、あえてそこを「皆さんはどう思いますか?」とオープンクエスチョンにしておくことの価値を、尊重している番組ではないかと個人的には感じています。それは大下さんのキャラでもあり、ポリシーでもあると思っていました。
大下 でもそれは知性なんでしょうか。そもそも私は、自分の選択に自信を持ったことがまったくないですし。自分は間違っているのではないかと、いつも不安を抱えています。
中野 自信がないというのは、逆説的ですが、知性ないしは知性の体力の表れといっていいものなんです。
アメリカのコーネル大学とイリノイ大学の研究グループが行った研究があります。研究では学生たちにユーモアの理解度のテストをします。一方で、自分のユーモアのセンスに自信があるかどうか自己評価を報告してもらいます。すると、理解度テストの成績が悪かった学生ほど、自分のセンスを高く評価していたことが分かったんです。
大下 自分にはユーモアのセンスがあると思っている人ほどユーモアを理解していない(笑)。面白い研究ですね。
中野 この研究は2000年にイグノーベル賞を受賞しました。
例えば容姿についても、恋愛や仕事においても同じことがいえる蓋然性が高いでしょう。能力が低い人ほど自分を過大評価する……これをこの実験をした2人の研究者の名を取ってダニング=クルーガー効果といいます。自信がある人はむしろ気をつけなければいけないということかもしれません。
大下さんはいつも不安だということですが、10代の成績優秀者は不安傾向が高いということが分かっています。不安だから勉強する。だから成績がいい。成績がいいのなら自信を持っていいはずなのに、まだこれでは勉強が足りないと考えるわけです。
大下さんはいつも徹底的に準備していますよね。人知れず調べものをしたり、きちんと裏を取ったりしたうえで番組に臨んでいるのに、本人はちっともそれをアピールしない。だから私がここで言います!