大下さんの「人に巻き込まれないようにする術」
大下 本書の中でも紹介していますが、中野さんに以前、「大下さんの人に巻き込まれないようにする術、すごいですよね」と言われたことがあります。そんなこと言われたことがなかったのでびっくりして、よく覚えているんです。
中野 大下さんほどTPOをわきまえ、きちんと人に合わせてくれる人はいないと思うんですが、踏み込み過ぎずに意外とスッと引くときがありますよね。
大下 昔からソーシャルディスタンスを取るほうかもしれません。近しくなり過ぎると、余計なことを言ってしまったり聞いてしまったりするかもしれないので。
中野 他の人には言わないのに、パートナーや仲のいい友人には要求してしまうということがありますよね。
愛着を作るオキシトシンは幸せホルモンと呼ばれますが、過剰に分泌されると相手のことを別の世界を持った別の個体として認識できないような認知の状態が作られて、自分の正義やルールを相手に要求するようになりがちです。
大下さんは近くなり過ぎず、適切な距離で穏やかにホバリングしている。控えめで穏やかで、でもたたかわないと言いつつ、実は毎日たたかっていますよね。
大下 中野さんとは別の日にコメンテーターとして出演していただいている田中ウルヴェ京さんから「アスリートのようだ」と言われたことがあります。
アナウンサーは正確に伝えることが最も大事なのですが、災害報道でもコロナに関することでもどうしても専門用語が多くなり、正確さだけでは重要な情報が伝わらないことがあります。ですからどうやったら分かりやすく伝えられるだろうかと頭をフル回転させる。それが私の毎日のたたかいですね。
中野 本番中に司会者にカンペが出ると、普通はそのまま読みます。大下さんは瞬時に短く簡潔に、でも的確に言い替えて伝えるんです。こういう言い替えは他の人はできない、すごいなと思う場面がしばしばあります。
大下 瞬時というと先ほど中野さんはダニング=クルーガー効果の実験の話をパッと出されましたが、本番中もたくさんある知識の引き出しから最も適切かつユニークなものをパッと出してくれます。