テレビやネットには様々な種類の怪談や怖い話が溢れている。その中で、特に「恐ろしい」と感じるのはどんな話だろうか。オカルトや怪談の研究をライフワークにしている吉田悠軌さんは「『子殺し』にこそ最大の恐怖を覚える」と語り、「現代の社会全体にとってもまた最大の恐怖であるはずだ」と指摘する。

 ここでは、怪談をもとに現代人の恐怖について分析した同氏の著作『現代怪談考』より一部を抜粋。2ちゃんねるで発表された有名な怪談「コトリバコ」はどうして大反響を呼んだのか、「子殺し」という着眼点から紐解いていく。(全2回の1回目/後編を読む

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 2005年、ネット怪談の金字塔たる「コトリバコ」が投稿される。現代の子殺し怪談といえば、この話を忘れる訳にはいかないだろう。

――舞台は島根県のとある地域。偶然、旧家から奇妙な箱を見つけた投稿者たち。それは百数十年前、乳幼児たちを生贄にしてつくられた最強の呪物「子取り箱」だった。

 話は、明治元年頃にまでさかのぼる。隠岐騒動の「反乱を起こした側の一人」という男が、投稿者たちの集落へと逃れてきた。その際、男から地元民たちに伝えられたのが、コトリバコのつくり方だった。

「最初に、複雑に木の組み合わさった木箱をつくること(略)その木箱の中を、雌の畜生の血で満たして、1週間待つ/そして、血が乾ききらないうちに蓋をする。/次に、中身を作るんだが、これが子取り箱の由来だと思う。/想像通りだと思うが。間引いた子供の体の一部を入れるんだ。/生まれた直後の子は、臍の緒と人差し指の先。第一間接(原文ママ)くらいまでの/そして、ハラワタから絞った血を/7つまでの子は、人差し指の先と、その子のハラワタから絞った血を/10までの子は、人差し指の先を/そして蓋をする」

 こうして、1~7人までの子供を殺して、いくつかのコトリバコが作成された。その効果は凄まじく、呪いたい相手の家に箱を置くだけで、

「女と子供を取り殺す。それも苦しみぬく形で/何故か、徐々に内臓が千切れるんだ。触れるどころか周囲にいるだけでね」

 これまで迫害されてきた集落のものたちは、自衛のための武器として16個のコトリバコを作成し、持ち回りで管理することにした。そして100年以上が経ち、投稿者たちがその一つを偶然に発見。凶悪な呪いの片鱗に触れることになってしまった――。

 この物語が『2ちゃんねる』オカルト板「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?99」に発表されたのが、2005年6月6日昼過ぎのこと。たちまち大反響を呼び、同日夕方には専用スレッド「ことりばこ」が立てられ、その後も考察スレッドが乱立。本スレの「ことりばこ本館」だけでもPart14まで続き、2021年現在の『5ちゃんねる』ですら、コトリバコ関連の現行スレが見つかるほどである。