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「女と子供を取り殺す。触れるどころか周囲にいるだけでね」ネット怪談“コトリバコ”は、なぜ殿堂入りの名作となったのか

『現代怪談考』より #1

2022/05/15
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「コトリバコ」の発想の原点は…

 コトリバコとは、子供を殺すことでつくられ、また機能として女性と子供たちを殺す箱である。こうした嬰児殺しによる呪術は、実際に世界各地で見られる。たとえば東南アジアなら、「クマントーン」や「トヨル」など、胎児ミイラを最強の呪物とする信仰があり、今もそれらのレプリカが人気のアミュレットとなっている。間引きされた若葉の霊が福をもたらすというザシキワラシへの仮説も、投稿者に影響を与えているかもしれない。

 もっとも、クマントーンや、その延長である「ルクテープ」(タイの現代版・魂込め生き人形)では、幼児霊を「育てる」ことで呪力を強めようとの発想が見られる。あたかもポケモンをどんどん育成して大きく強力にしていくように、それが死霊であろうと精霊であろうと「成長」すべき存在と捉えているのだ。

 しかしコトリバコは違う。その呪力は100年以上続くとはいえ、だんだん衰えていくばかりだという。箱に閉じ込められた乳幼児の霊は、けっして成長することなく、放射性廃棄物のように、その影響力が減衰するまで忌避され放置されるだけだ。

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 投稿者が「子殺しの箱」の発想の原点としたのは、アジアの幼児霊信仰というより……むしろコインロッカーベイビーだったのではないだろうか。

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 近代以前、死んだ(殺した)嬰児の遺体を置く場所として、小さな洞窟や古墳の石室が選ばれることはよくあった。それらは今でも日本各地に「捨て子塚」「子捨て塚」「赤子塚」などの名称で伝えられている。目につかない場所だからという実際的理由の他に、もと来たところである子宮へ戻す「子返し」のため、岩穴や洞窟が選ばれたのだろうか。菰にくるんで川に流すのもまた、子宮へと返っていくイメージに繋がる。

 コインロッカーへの新生児の遺棄もまた、子宮へ「カエス」想像が含まれていたのではないか。もし手元から捨てたいだけであれば、当時なら裏路地のゴミ箱に投げ入れたり、深夜の公衆便所へ放置することもできたはずだ。しかしコインロッカーのような小さな箱を選んだのは、子供が子宮へ戻され、孕みなおされるイメージを期待したからではないか。