恋愛の話なのかと思って読んでいると、とんでもない方向に……
――私は巻頭の「テキサス、オクラホマ」のほうが恋愛の話なのかなと思ったんです。昔の恋人が着ていた、TEXASとOKLAHOMAの文字が入ったワッペンのついた、“生肉色”のパーカーをずっと着ている女の子の話なので。……でも全然違って、とんでもない方向にいきましたね(笑)。
藤野 生肉色の変なパーカーはですね、実在します。ほんまに「TEXAS」「OKLAHOMA」の文字が入った謎のワッペンが付いているんです。ずーっとうちにあるんです。夫のものなんですけど。
――あはは。その話に、やがてまるで自分の意思を持っているかのようなドローンたちが絡んでくるのだからすごい発想力。
藤野 ドローンってなんか好きなんですよね。映画でもアンドロイドやAIが出てくるようなのが好きです。でもそういう映画って、機械がいかに人間に近づき、感情を獲得し、人間と心を通じ合わせることができるのかというがテーマになってくることが多いと思うんですが、そのことには素直に喜べないんですよね。きゅんと来つつもなんだか悲しくなってきてしまう。人類が滅びようがおかまいなく、機械は機械で楽しくやってほしい派なんです。そういう人類と機械の分かり合えなさも、私はすごく素敵なものだと思っているので、この小説ではちょっと書いてみました。
――そう、そういう時、グロテスクなことも容赦なくお書きになりますよね。
藤野 好きなので(笑)。
私がどんな身体的条件だったら子どもを産むか、と考えたらチョウチンアンコウの生態が頭に浮かんだ
――2番目の「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」は職場で女の子たちがアイドルについてキャッキャと騒いでいる場面から始まり、実は現実の人間世界とは異なる生殖方法が存在している世界が描かれ、ジェンダーの問題も絡んでいます。
藤野 私は今37歳で、これを書いた時は36歳か37歳だったんですが、子どもを産むかどうかをずっと考えているんです。生物学的にはもうあんまり考える時間はないじゃないですか。すでに高齢出産だし。子どもは絶対に要らないと思ったこともないし、すごく欲しいと思ったこともないんですね。自分はすごく体力がなくてすぐ寝ちゃうし(笑)、いろんなことができないので、子どもができたらえらいことになるやろうなと思うと気が進まないんです。じゃあ、私が一体どういう身体的条件を備えていたら子どもを産む気になるのかなと考えた時に、昔から好きだったチョウチンアンコウの生態が頭に浮かんだんです。私たちがチョウチンアンコウと思っているものは、あれは全部メスらしいんですよ。オスは小さくて、メスのお腹にピタッとくっついて同化して、メスが卵を産んだ時にそれに精子を振りかけるだけなんです。その世界やったら私も子どもを産めるなと思いました。それで、私はユートピアだと思って書いたんですが、夫は読んだ後震えあがっていました(笑)。ぜんぜんユートピアちゃうやん、ディストピアもええとこやわって。
確かに、男性の身体が小さくないとこの世界は成り立たないということを考えた時に、現実で女性の容姿や若さについて言われることを男性側に逆転して書けると気づいて喜んで採用したので、男性にとってはディストピアですよね。
――年を重ねて身体の大きくなった男性が冷たい目で見られるところとかね。
藤野 そうそうそう。
――しかも子どもを作るとなると、男性側がなんというか、大きな変化を強いられる。
藤野 私もどうしてこんなに自分が出産することが怖いのかなと思ったら、それまでの自分がそこである意味、死んでしまうというふうに感じているからなんですね。だからまあ、これくらいがフェアなんじゃないかって思って書いたところがあります。