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皮膚科のブログで皮膚疾患を見るのが好き

――「真夏の一日」は、一人の女性の一日が描かれますが、紫外線をここまで避けて暮らしているのか、という。

藤野 まだ若く、働いていて、一人暮らしをしている独身の女性のなんでもない一日、という感じで書きました。

――出かけるつもりなのにだらだら過ごしているうちに夕方になってしまう、という。

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藤野 それはもう私のことなんですけれども(笑)。

――しかもこの女性は、美白に対して強迫観念があるというか。メラニンのことを考えたり、ホクロが出来たことにこだわったり。

藤野 もともと皮膚科好きなんです。皮膚科に行くのが好きなんじゃなくて、皮膚科のブログで皮膚疾患を見るのが好きなんですよ。

――あ、美容への興味ではなくて、そっちですか(笑)。

藤野 粉瘤の摘出手術とかを見るのが大好きで、毎日のように検索して見ているんです。

――ジェンダーの問題を意識したのかと思ったら、全然違った(笑)。

藤野 でも、暗闇のなかから出てくる男の子を書きましたが、それが女の子じゃなくて男の子だというのが、やっぱり少しジェンダーの問題に関わっているのかもしれないですね。それに、男の子の年齢も、ジェンダーに関わっているのかもしれません。

一緒にいたはずの親や兄弟がその体験を全然憶えていないというショック

――「愛犬」は幼い頃に近所のおうちに行ったらインテリアが真っ白で……というところから広がる話。ここに登場するご近所さんの犬が皮膚病を患っているのも、趣味炸裂ですか。

藤野 ほんとだ、意識していませんでしたが、趣味炸裂してました。あんまり動物の皮膚病には興味がなかったんですけれど(笑)。

 私は『人生がときめく片づけの魔法』とかが大好きで熟読していて、部屋をきれいにしている人のブログもチェックしまくっていて。『爪と目』(13年刊/のち新潮文庫)でも少しそのことを書いたんですけれど、まだまだ書き足りなかったので、書きました。なんで皮膚病の犬が出てきたのかは自分でも分からないんですけれど、狭いところに飼われている犬のイメージがありました。

――インテリアが真っ白な家に遊びに行ったら、庭に皮膚病の犬がいる。その犬が脚で身体を掻くと、肉片が網戸に飛び散るところとか、グロテスクですよね。

藤野 そうですよね、実際に見たらほんま嫌ですよね。

藤野可織さん ©山元茂樹/文藝春秋

――幼少期のその家と犬の記憶が、やがて変容していく。そしてラストへの持っていき方が、もう。一抹のノスタルジーと、切なさと優しさがありますよね。毎作、予想のつかない方向に話が展開しますよね。藤野さんはプロットをかっちり決めて書くタイプではないと思うのですが、いかがですか。

藤野 一応ぼんやりと、だいたいこんな感じ、というのはあるんですよ。でも細部は書くまで分からない。「愛犬」を書いた時は、犬が皮膚病やとなってからは、わりとラストまでは見えていたような気がします。記憶違いについても考えていました。小さい時はこうやと思っていたことが、大人になるとまったく違ったことって、よくありますよね。

――藤野さんの作品はどこに連れていかれるか分からないけれど、放り出される感覚というより、何か確かな感触を残してくれるから大好きなんだな、と「愛犬」を読んだ時に改めて実感しました。

藤野 嬉しい。よかった。