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クズで分別がなくて、魅力的な中年女性を書いてみたい──「作家と90分」藤野可織(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2017/12/16

genre : エンタメ, 読書

note

ホラーってめっちゃ笑えます

――前に時計の広告でビルにニコラス・ケイジの垂れ幕がかかっていた時に、写真撮ってましたよね。

藤野 ニコラス・ケイジ大好きです。ニコラス・ケイジのことを考えると幸せになります。

――オススメはどの作品ですか。

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藤野 だいぶ前の作品ですけれど、スコセッシの『救命士』がニコラス・ケイジ映画の中で一番好きです。アメリカの退廃的な大都市を夜中巡回している救急救命士の話で、みんなドラッグや銃撃戦で死んでいったりするんですけれどね。自分もハイになりつつ、人を助けたり助けられなかったりする話です。『タクシードライバー』に続きがあるとしたら、こんな話かなと思うような話です。なんかもうすごく切ないし、本当にやり切れないけれど、優しくて、大好きな映画です。あと『ロード・オブ・ウォー』とか『バッド・ルーテナント』も好きだし、『コン・エアー』とか『フェイス/オフ』なんかももちろん大好きで、タイトルを思い浮かべるだけで笑えてきます。

――前に「ホラーってめっちゃ笑えます」とおっしゃっていましたね。そのユーモアをキャッチする感覚がご自身の作品にも表れているなあと感じます。切実だけど何か笑えるところがあるし。なんかもう、絶対誰にもまねできない世界を作り上げていますよね。

藤野 わあ、ありがとうございます。

最後の景色だけは決まっている

――さきほど短篇のほうが好きということでしたが、『おはなしして子ちゃん』に収録された「ピエタとトランジ」は、その後「群像」で続きの話が〈完全版〉として連載されていますよね。

藤野 アイオワ大学のプログラムに参加している間書けなかったので、今ちょっと連載が抜けているんですけれど、また頑張って書きます。

 あれは「群像」さんで何か連載をというお話をいただいた時に、いくつか案を出したら「うーん、イマイチだね」と言われたので、「『ピエタとトランジ』の続きはどうですかね」と言ったら、「だからね、書きなよって言ってたでしょ」ってすぐ採用していただけて。そうだったっけな? と思ったんですけれど(笑)。

藤野可織さん ©山元茂樹/文藝春秋

――ピエタの学校にトランジが転校してくるけれど、「私の近くにいるとみんなろくな目に遭わない」という彼女の言葉通り、学校で事故や殺人が起きる。2人は探偵と助手役みたいな役回りで、探偵の行くところでは必ず凄惨な事件が起きるという。〈完全版〉では彼女たちが成長して、生活環境も変わっていきますよね。

藤野 「ピエタとトランジ」は自分の書いた小説の中でも結構好きなんですけれども、あの続きを書くとしたら、最後ここで終わる、ということは連載が決まるずっと前から決めていました。その光景がどうしても書きたくて、そのために今も連載を頑張っています。自分にとって、ここまで着地点がはっきりしている小説は他になかったと思います。

――きっと、これまでの藤野さんの中で一番長い小説になりますよね。いつ単行本になるのでしょう。

藤野 できあがったら、たぶん一番長い小説になりますよね。私がちゃんと毎月書けていたらそろそろ単行本になっていたはずなんですけれど、隔月掲載にしてもらったうえに、アイオワに行っていたので……。