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出不精なのにアイオワに3か月行って足腰が丈夫になった

――アイオワはどれくらい行っていたのですか。出不精の藤野さんが海外に行くイメージがなかったので意外でした。

藤野 3か月弱行っていました。出不精は、アイオワで鍛えられました。ほぼ毎日、部屋から出ざるを得なかったんです。引きこもっていた日も何日かあったんですけれど、私にしたらもう、すごく出かけていました。それでちょっと足腰が丈夫になったと思います。

――アイオワの作家プログラムは去年、柴崎友香さんが参加されてましたよね。あれは「アイオワに来ませんか?」と向こうから声がかかるわけですか。

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藤野 そうです。本当は旅行も嫌いでアメリカに行ったこともないし、数年前まで新幹線のチケットの買い方も分からなかったんです。でも飛行機のチケットなんかは全部アイオワ大学が手配してくれるし事務的な手続きは何も必要ないと聞いたから、せっかくだし行ってみようかな、って。でも行くと決めたらビザの申請とか結構面倒くさくて「やることあるやん」と夜中にブツブツ言いながら作業してました。

――シンポジウムで発表とかしなくちゃいけなかったのでは?

藤野 そうなんです。発表しないといけないんです。頑張って英語の原稿を作って、一生懸命発表しました。でも私、本当に英語が駄目なんです。日常会話もできない状態で。でもあっちには私より日本語が上手な日本文学の研究者さんや学生さんたちがいらっしゃって、その方々に原稿を直してもらったり、もう丸々翻訳してもらったりしました。発表ではそれをそのまま読みました。

――アイオワで、何か創作活動に刺激を受けたように感じますか。

藤野 それはあります。外国人の友人もたくさんできましたし、みんなすごくよく私に話しかけてくれるんです。私が半分くらいしか分かっていないことをこの人は知っているのだろうかと思いながら聞いていたんですけれど。でもそれもすごく楽しかったし、これで少しアメリカを舞台にしてこういうことが書けるかな、というのもできました。

日本では無鉄砲な女子高生は描かれても、分別のない中年女性やおばあさんは描かれてこなかった

――今後の創作は「ピエタとトランジ」の続篇にとりかかりつつ、他には。

藤野 「アンデル」さんでの連載も休ませてもらっていたんですが、それも連作の形で全体としてひとつ大きなものになるよう目指しています。これは最終的にどうなるかはあえて決めずに始めたので、私としては手探りで恐ろしいんですけれども。他にも「新潮」さんでも連作みたいなものを書かせてもらおうと思っています。

瀧井朝世さん ©山元茂樹/文藝春秋

――じゃあ今後は独立した短篇ではなく、連作が増えるんですね。

藤野 そうですね。ひとつの短篇として書くけれども、一冊の本になった時に長篇になっていればいいな、くらいの感じです。そういうやり方なら長篇も書けそうな気がして。

 短篇を書いている時は、読んでくださる方に目隠しをして、自分でも知らないところに手を引いて連れていって、置いて帰ってくる気持ちで書いているんです。長篇になると、その道のりが長すぎて、たぶん私が途中で疲れてしまう。でも短篇の連作にして、それが将来的に長篇になるという形だったら、何回も短い距離で繰り返せばいいのかな、と思いました。でもいつか、一気に遠いところまで行ってみたいとは思います。

「ピエタとトランジ」は、書いているうちにだんだん、何が書きたいのかがわかってきました。彼女たちは最初は女子高生ですが、続きでは年をとっていきます。女子高生とか若い女性が活躍する作品に比べると、中年や老年の女性が無鉄砲な冒険をする作品は少ないような気がします。女の子たちが歳をとって、中年女性とかおばあさんになっても、相変わらず無茶苦茶で、ひどいことをいっぱいして、分別がなくて、ということを書きたいなと、途中ではっきり分かりました。

――いいですね。自分も歳をとっていく人間として、とても楽しみです。

藤野 なんか、クズの中年男性やクズの壮年の男性が、クズでありながら魅力的に書かれている小説や映画はすごく多いと思うんです。クズの中年女性とか、クズの壮年の女性が、クズでありながら魅力的というのは、だいぶ少ないんじゃないかなという気がするので、それが書ければいいなと思います。

――そういう作品があると心強いです。

藤野 頑張ります。

©山元茂樹/文藝春秋