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クズで分別がなくて、魅力的な中年女性を書いてみたい──「作家と90分」藤野可織(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2017/12/16

genre : エンタメ, 読書

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◆読者からの質問

■藤野さんの作品が大好きで、どの作品も楽しんで読ませていただいています。 作品では、おそろしい鳥だったり幽霊だったり狐だったりと人間じゃないものが出てくることがありますが、今後登場させてみたいものとかはありますか。(20代・女性)

藤野 そうですね、ロボット、アンドロイド、AIみたいなものは登場させてみたいです。

■藤野さんは京都のご出身だと伺っておりますが、金閣寺以外で燃やしたいほどに憑りつかれた京都の名(じゃなくてもいい)所はありますか? どうぞ、よろしくお願いします。(20代・男性)

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藤野 映画では爆発があるべきだとすら思ってるんですが(笑)、金閣寺もそのほかの場所も別に燃やしたいと思ったことはないです。好きすぎて燃やしたい、という気持ちはないですね。むしろ不潔なトイレとかだったら燃やしたいです。取り壊して新しくしてほしい。

「正確に書く」という訓練をひたすらやった2年間がなかったら小説家になれなかったと思う

■私もひっそりと小説を書いているのですが、情景と場面展開がうまく書けません。 どうしたらうまくなれますか? (17歳・女性)

藤野 情景を書くのは訓練だと思うんですよね。画家の方だとデッサンで画力を鍛えると思うんですが、それと同じように、見たものをそのまま、それを見ていない人でも文章を読んだらだいたいこんな光景だなと思い描けるように正確に書く訓練をする。その時、これを見てどう思ったとか、そういう情報は要らないです。たとえば対角線上に何がきてるとかいった、システマチックなことを書く訓練をすればいいと思います。私、今、京都精華大学でそういうことを教えているんです。半期だけなんですけれど、もう3年くらい行っていて、ひたすらその訓練だけをしてもらう授業をやっています。私も大学院で、同様の訓練をしました。私の専攻は美学および芸術学で、美術作品について論文を書く学部です。視覚芸術がどのように描かれているのか、どのように作られているのかを本当に正確に書き起こすことさえできればもう論文はできたも同然だというのが、そこでお世話になったゼミの先生の方針でした。正確に書くという訓練をひたすらやった2年間でした。あれがなかったら小説家になれなかったと思います。

 場面の展開っていうのは、シーンとシーンの切り替えである場面転換のことでしょうか。うーん、どうしたらいいんだろう。私もどうやって書いているのか分からないです(笑)。でもやっぱり、前のシーンと次のシーンというのは、何かひとつ、細い糸でつながっているとは思うんです。それは時間的なことだったり、感情的なことだったりすると思います。

■私は来年からワーキングホリデーでしばらく外国で過ごす予定です。 藤野さんは行ってみたい国や地域はありますか。また、もしあればその場所を選んだ決め手を教えてください。(20代・女性)

藤野 この前までアメリカに行っていたので、またアメリカに行きたいです。英語力がゼロというかマイナスの状態で行って、なんとか生きていけるかなぐらいの主張はできるようになったので。すでに1日1日英語力が失われている感がありますが、もっといたらもっとできるようになって、もっと楽しいんじゃないかなと思います。あと、英語圏じゃないんですが、アイスランドはずっと行ってみたいなあと思っています。

■作品の示唆を得る最も適した方法は? (50代・男性)

藤野 私の場合は、小説を書くことが一番、次の小説のことを考えるきっかけになります。この小説でできなかったことは、次の小説でできるかもしれないと思うので。いつも書いている時に、もっとこうしたかった、もっといい小説が書きたかった、次の小説ならきっとそれができる、と頭でいろいろ楽しく考えるんです。実際その次の小説にとりかかったら、なんか違ったなって思うんですけれど(笑)。でも、それでまた次の小説を書くのが楽しみになります。

■執筆活動中にモチベーションが上がらなくなった場合の解決法はありますか? またお仕事がはかどる場所(自宅・喫茶店)などはございますか?(20代・男性)

藤野 寝るか読書ですね。あとは映画を観ます。仕事がはかどるのは結局自宅です。よく外に持ち出してやったりもするんですけれど、なんか周囲の人の会話を聞いちゃうので、最終的な作業は自宅になります。

■藤野さんがホラー映画がお好きだという話は有名ですが、ホラー小説やホラー漫画はお好きですか。おすすめがあったら教えてください。(30代・女性)

藤野 ホラー小説って、よくわからないんですよね。私が面白いと思うたいていの小説は怖いけれど、ホラー小説という触れ込みで売られていないほうが多いですし。それにひきかえ、漫画の方は、昔から「ホラー」という枠組みで売られているものが好きでした。楳図かずおと伊藤潤二はいつ読んでも最高です。御茶漬海苔の、コマを縦にぶちやぶる雨の音も大好きです。最近は、ひよどり祥子『死人の声をきくがよい』という漫画を読みました。すごく面白かったです。

■twitterで家の中の植物の写真をよく見かけます。ガーデニングは好きですか。どんな種類の植物が好きですか。植物ではなく、動物を飼ってみたいとは思いませんか。(20代・女性)

藤野 外に出るのが苦手なので、ガーデニングはきっと私には無理だと思います。それで、家の中で観葉植物を育てています。好きなのは、変なかたちの多肉植物です。でもみんなすぐに腐ったり溶けたりしてしまうんですよね……。動物は、いつか猫を飼ってみたいです。

■藤野さんの文体が好きです。ずっとその世界に浸っていたいので、大長編を書いていただけないでしょうか?(50代・女性)

藤野 うわあありがとうございます!いつか挑戦したいです。

藤野可織さん ©山元茂樹/文藝春秋

藤野可織(ふじの・かおり)

 

1980年、京都市生まれ。同志社大学大学院美学および芸術学専攻博士課程前期修了。2006年「いやしい鳥」で第108回文學界新人賞、2013年に「爪と目」で第149回芥川龍之介賞受賞。著書に『いやしい鳥』『パトロネ』『爪と目』『おはなしして子ちゃん』『ファイナルガール』がある。

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※「作家と90分」藤野可織(前篇)──新可愛らしくてグロテスクな新刊『ドレス』に翻弄されろ──も公開中! http://bunshun.jp/articles/-/5359

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