目の前でその壮絶な経験を話すA子さん(20代)は常に手を震わせていた。隣に座る父親によると「薬の影響」なのだという。A子さんはかつて「海外に一人旅にも行くような活発で明るい子」だったが、ある男との出会いで人生は一変。細い腕にはリストカットの後が生々しく残っている。
A子さんに暗い影を落としているのは、歌舞伎町の『東京クリニック』の院長、伊沢純容疑者(51)だ。伊沢容疑者は、覚醒剤取締法違反容疑で2022年3月7日に、A子さんへの傷害容疑で2022年3月28日に逮捕され、その後4月21日に女性患者へのわいせつの疑いで再逮捕されたと発表された。A子さんとは2021年4月頃から交際し、同年10月頃から同棲生活を送っていた。
飲みきれないほどの睡眠薬や向精神薬
「同棲をはじめてすぐ、日常的に暴力を振るわれるようになりました。私がお揃いのワイングラスを洗っていて割ってしまったときには、伊沢先生にグラスの破片で頭を刺されたこともあります。真っ赤な血がダラダラ流れて、大変でした。彼が機嫌の悪いときには食事抜きの罰が与えられることもありました。
でも、辛いばかりではなかった。普段はギャグを言うこともあるし、面白い恋人だったんです。昨年のクリスマスにはお揃いのヴィトンのネックレスをくれましたし。優しいときと怖い時が半々くらいなんです。次第に、いつも彼の顔色を窺って生活するようになっていきました」
度重なるDVに加え、多量の向精神薬や睡眠薬を処方されてもいた。
「『すっきり眠れるから』という理由で、飲みきれないほどの睡眠薬や向精神薬を処方されていました。それ以外にも伊沢先生は『A子ちゃんは従順になるようにもっと飲まなきゃ』と、エビリファイなどの薬を処方されることもありました。私は看護師の資格を持っていて薬の知識があったので、必要のない薬は飲んだふりをして持っているようにしていましたが、それでも薬の量はどんどん増えていきました」
伊沢容疑者にも起きていた異変
A子さんのお薬手帳を見せてもらうと、尋常ではない量の薬物が処方されていることがわかる。ある医療関係者はこう語る。
「薬理学的にも1人に処方する量としてはありえない分量です。特に気になるのが、ベタナミンが1日の処方量以上に処方されていることです。ベタナミンは過度の不安、緊張、興奮、焦燥、幻覚、妄想状態、ヒステリー状態にある患者には禁忌とされており、使い方によっては精神状態はむしろ悪化する可能性もあります。これは肝臓に負担がかかりやすく、重篤な肝障害を引き起こすこともあります」
ときには、優しい恋人を演じ、ときには壮絶な暴力を振るう。そんな典型的なDVにくわえ、“薬漬け”の状態になっていたA子さんは、伊沢容疑者への依存を高めていった。
一方、伊沢容疑者にも異変が起きていた。「誰かに見られているからカーテンを閉め切って換気口を粘土でふさげ」と言ったり、どこかへ外出して帰ってくると電気が消えたトイレに篭って「あー、あー、あー」と呻いたりと、尋常ではない様子だったという。
それでも同棲生活は続いていたが、2022年に入り、その歪な関係はついに崩壊をはじめる。