A子さんはおもむろにこう口にした。
「妹には心配をかけてごめんね、という気持ちです。悲しかった。本当に辛かったけど、葬儀が終わって伊沢への怒りが込み上げてきたんです」
現在、A子さんは実家で暮らし、減薬にも取り組んでいるという。しかし、向精神薬や睡眠薬をはじめ、薬物への依存から脱却するのは精神的にも身体的にも容易ではない。
「A子はまだ薬が抜けておらず、寝ながら突然話し始めることもあります。目も半開きで、意識を失っているように見えますが、はっきりと話すんです。なるべく夜に寝かせて朝起こすようにしていますが、昼の2、3時まで起きない日もあります。『死ぬ』と口にする日もあって、今でもすごく波があって精神が安定しない。かなり減薬できてきているが、美容の薬だけはいまだに毎日何十錠も飲んでいます」(父親)
「飲まないと不安になる」“薬漬け”の後遺症
A子さんは傍らに置いていたボストンバッグを引き寄せた。ファスナーを開けると、中には大量の薬が入っていた。
「これは処方された量の50分の1ぐらいです。これを飲んだら綺麗になるからと伊沢に言われて、自分で調べてもビタミンとかだから良いかなと思って。飲まないと不安になるんです。強い向精神薬や睡眠薬が入っている伊沢カクテル(フェノバール、クエチアピン、コントミン、フルニトラゼパム)は絶対にもう飲まないけど、お守りとして持っておきたいって今でも思ってしまいます」
最後に、父親はこう話した。
「こんなことは僕の娘たちだけでたくさん」
「本来のA子は明るくて活発で……。でも、薬のせいでまるきり動けなくなってしまいました。俺は、昔から家族は絶対に大事にしていこうと決めていたんです。少し前まで家族はまとまっていて、5人で旅行に行くこともよくありました。それが、伊沢の存在で崩れていった。A子は薬漬けになり、妻は何かあったときのためにと仕事も辞めました。妹はA子を心配して俺の仕事中にもちょくちょく電話をかけてきていましたが、ついには自殺してしまいました。
こんなことになるのは僕の娘たちだけでたくさんです。同じような被害者を今後増やさないために、すべてをお話ししたんです」
伊沢容疑者はこれまでに事件を何度も起こしては、ほとぼりが冷めたらまた歌舞伎町でクリニックを開業する、という繰り返しだった。「薬をいくらでも処方してくれる」と人気を集めていたという話もある。しかし、患者はそれぞれさまざまな問題を抱えている。医師として果たして正しい処方ができていたのだろうか。
「過去にも問題を起こしていた医師がなぜ同じ場所でクリニックを続けられるのでしょうか」
A子さんの父親が口にした疑問には、強い怒りが滲んでいた。
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