残念ながらあまりファンに支持されたとは言えず立ち消えになった「理想の花嫁」企画は、コナンの作品世界のそうした繊細さとそぐわないと感じたのも事実だ。
『名探偵コナン』では人気キャラクターの投票企画も過去にあるが、「理想の花嫁」と言われて女性キャラクターに順位をつけるのは、フェミニズムやミスコン批判的な文脈とは別に、彼と彼女たち一人一人の関係性、それぞれの恋愛の物語を断ち切り、傍においやってしまうような後味の悪さを、一人のコナンファンとして筆者も感じた。
『コナン』シリーズの本当の強さは「100億行くか行かないか」ではない
日本の映画史上でかつてない「毎年100億が可能になるかもしれない」という夢の前で、広報企画にプレッシャーがかかるのは想像できるし、企画が中止になった今、あまりあげつらいたくはない。
だが、「何かしらの商品を買って得た投票券でキャラクターに順位をつけ、『推し』への愛でファンを競争させる」という手法は、かつてアイドルファンを激しく疲弊させた手法であることも事実である。その先駆者であるAKB総選挙は、2018年を最後に「一定の役割を終えた」として今後は開催しないことが宣言されている。
個人的な印象だが、この時もファンからは選挙企画の終了を惜しむ声の他に、「これでよかった」と支持する声も多かった。『総選挙』への出場辞退を表明するメンバーも続き、「心理的負担が大きすぎる」「まるで人質に取られているみたいだ」「これで本来の応援に力を回せる」というファンの声は少なくなかったのだ。
投票企画は中止されたが、最新作『ハロウィンの花嫁』は絶好調のスタートを切っている。『緋色の弾丸』の延期によってためられた2年分のエネルギーをぶつけるようなクオリティ、そしてファンの支持の熱さによって、メディアはいよいよ今年に100億達成か、の声も大きい。
でもあえて言うなら、『コナン』シリーズの本当の強さは100億行くか行かないか、他の作品に比べてどうか、と言った所ではなく、長い時間をかけて築いてきたコンテンツの永続的な信頼性にある。
大丈夫、これから日本と映画産業にどんな困難な時代が来たとしても、このシリーズを求める人々がこんなにいるんだぜ、というひとつの証明として、逆風の中で公開された『緋色の弾丸』はコナンの歴史の中で輝き続ける作品になるだろう。