1997年から今年の25作まで続く劇場版名探偵コナンシリーズの中でも、『緋色の弾丸』は歴史に残る特筆すべき作品と言えるだろう。
興行収入の記録では、第22作『ゼロの執行人』の91.8億、第23作『紺青の拳(フィスト)』の93.7億円から来て、第24作『緋色の弾丸』は76.5億円。数字だけを見れば、前作前前作に比べて下がり、勢いが落ちたように見える。
だがそうではない。去年の春、この作品が公開3日で興行収入22億円というコナンシリーズ空前のスタート成績を叩き出した直後、その翌週に東京、大阪、京都、兵庫の緊急事態宣言に見舞われたことを記憶している人も多いだろう。
今でこそ「シネコン映画館は換気も良く、1席空けにすれば必ずしも閉鎖の必要はない」という見方が広まったが、2021年の4月に緊急事態宣言がされるということは、対象地域の大手シネコンがシャットダウンすることを意味していた。
公開後1週間で東京大阪京都兵庫という、東と西の最大人口ゾーンの映画館が全て消えるというのは、興行関係者にとって最大の悪夢である。公開前に緊急事態が宣言された方が、延期で仕切りなおせるだけはるかにマシなのだ。
その後、3回目の緊急事態宣言は他の県にも対象を広げつつ、東京で解除が宣言されたのは6月。映画が勝負をかけるゴールデンウィークどころか、ほぼ2ヶ月を大都市圏で失う致命的な結果になった。
特筆すべき作品と書いたのは、『緋色の弾丸』がその状況にも関わらず76.5億という数字を残していることだ。
去年の春の段階では、まだワクチン接種も十分に進んでいない。2021年の日本の興行収入ランキングを見れば分かるが、上位にいる作品のほとんどは幸運にも緊急事態宣言の時期を外れたか、もしくは延期で回避できた作品であって、真正面から緊急事態宣言にぶつかる形で『緋色の弾丸』ほどの成績を残した作品はない。
はるかに改善された秋に公開された洋画超大作でも、40億行けば大ヒットという状況の中で、『ゼロの執行人』の1作前、2017年の『から紅の恋歌』68.9億をこえる数字を残しているのだ。
『緋色の弾丸』の興行収入成績が意味するものは、単体としての成績が下降したことではなく、劇場版名探偵コナンシリーズの異常とも言える安定性、日本の映画観客に完全に定着した根強さである。「あの逆風の中で70億を超えるのか」と映画関係者は舌を巻いたのではないかと思う。
映画の常識から外れた『コナン』シリーズ
映画は当たり外れがあり、前作がヒットしても次は分からない、続編を作り続ければ飽きられて成績が下がっていくというのは映画興行の常識である。だがコナンシリーズはその常識から明らかに外れた、とてつもなく高いレベルでの安定性を手にしている。