フランス・ブザンソン市で21歳の筑波大学生・黒崎愛海さんが行方不明になったのは2016年12月のことであった。
あれから5年と4カ月、遺体も自白もないまま、4月12日、ニコラス・セペダ被告(現在31歳)に計画性のある意図的な殺人罪で28年の禁錮刑の判決が下った。
2週間に渡る裁判を終始取材した「パリジャン」紙のニコラ・ジャカール記者に、遺体も発見されず、容疑者の自白もないこの異例の裁判の様子を語ってもらった。
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「フランスの裁判」とはどんなものか
かくして、3月29日、裁判が始まった。
フランスでは、10年以上の懲役又は禁錮等が科される犯罪については重罪院で裁かれる。日本の裁判員制度と似た、3人の判事に、市民から選ばれた6名が参加する参審制である。
取材を申し込むと、裁判所からプレス資料が送られてくる。発行する義務はないが、マスコミの注目を浴びる裁判では必ずだされる。本文12ページで、事件手続きの経過、裁判所の構成、事件手続きの要素、裁判日程の予定、裁判取材の規則や実用的な情報からなる。被告の容疑、該当条文、私訴原告人の名前、そしてそれぞれの弁護人の名前が記載され、捜査から判決、刑の執行までの手続きの内容や関係者の役割の解説まで幅広くそろった資料だ。
私訴原告人とは、被害者とその関係者のこと。本件では、黒崎愛海さんの家族4人とブザンソンで恋人だったアルチュール・デルピコロ氏である。日本では損害賠償は別に民事で請求しなければならないが、フランスでは刑事裁判で同時に判断されるので、賠償を求めることもできる。日本では被害者は傍聴するしかないが、フランスでは私訴原告人として、当事者として弁護士と共に審理に参加する。
取材に関しては、裁判の録音は禁止だが、メモは自由にできる。法廷に携帯電話を持ち込むことはできるが、サイレントにしておき撮影録音は禁止。ただし、ライブブログ、ツイートはできる。開廷前の裁判官の入場と裁判所のホール、玄関外での撮影だけが許される。被告の撮影はいかなる場合も禁止で、私訴原告人は同意があればできる。
今回法廷には10席報道席が用意された。さらに法廷とは別に36席のプレスルームが用意され、法廷の様子が同時中継され、机、電源、電話設備などがある。このほかに同時中継室があり、傍聴席が一杯になったときには一般傍聴者はそこで公判を傍聴できるが、今回はそこにも10席報道席が設けられた。
注目を集めた裁判…「200人以上は来ていたのでしょう」
「とても密度が濃く、緊迫感や威厳のある裁判でした。
最初の頃は傍聴席に空席がありましたが、すぐに一杯になりました。最後の方では、中継室も一杯でプレスルームにまで人が溢れていました。常連だけでなく、ふだんは来ない人もずいぶんいたようでした。
法廷の傍聴席は100人ぐらい入ります。中継室も同じぐらいだから200人以上は来ていたのでしょう。プレス関係者は35人が取材許可をとっていました。最後の方だけ来たところもあります」(ジャカール記者、以下同)