証拠として出てきたSNSの映像や監視カメラの映像などはスクリーンに映され、傍聴人も見ることができた。個人情報の保護や残虐すぎる映像などにより映されない場合もあるが、あくまでそれらは例外である。裁判は「市民のもの」だからだ。
「外国とのリモートでの証言もありました。時差があるので、日本からのリモートがあるときは朝8時から開廷しました。日本では午後3時です。
愛海さんのブザンソンの恋人アルチュールも証言していました。偶然ですが、彼は愛海さんの通っていた筑波大学に留学していたことがあります。日本では、愛海さんとは面識はありませんでしたが。いまは営業エンジニアとして日本で働いています」
日本語・フランス語とスペイン語・フランス語の通訳がそれぞれ3人ずつついて、30分づつ交代して逐語通訳がおこなわれた。
毎日ワイシャツにネクタイ姿で現れた被告「つねに、最後に発言したがり…」
セペダ被告は、毎日ワイシャツにネクタイで被告席でおとなしく座っていた。
「非常に礼儀正しく、自分に自信を持っていました。つねに、最後に発言したがり、物事を説明するのに細かいところまで入ってずいぶん時間を取りました。明らかに信憑性がないことでも滔々としゃべりました。自分自身でも自信がないような感じの時もありましたが……」
土日の休みをはさみ、裁判8日目の4月7日、陳述・証言が一通り終わり、裁判長が証人の言ったことについて質問する「総括尋問」が7時間にわたって行われた。「セペダ被告は少し泣いてついに我慢しきれなくて自白するのではないかと思われました」。だが、自白には至らなかった。
セペダ被告のジャクリーヌ・ラフォン弁護士はサルコジ元大統領の弁護などもしている、60歳のいまフランス最高の弁護士だと言われる人である。
「おそらくはじめは無実を勝ち取るために依頼されていたのだと思います。第1週目では、証人に細かく質問をしていました。しかし、あまりにもたくさんセペダ被告を糾弾する要素がそろったので、ある時から、無実を追求することはあきらめたようです。『無実だ』といいつつ信じていないようだったので、不思議な感じもしました。
おそらく、ラフォン弁護士は自分の名声を守ろうとしたのだと思います。無理に無実を追求することは弁護士としての名誉を傷つけますから」
唯一、被告が冷静さを失って叫んだ瞬間
SIMカード、携帯電話、レンタカーの記録、証言……たくさんの手がかりがあり、それらがすべてセペダ被告に集約されていた。これに対してセペダ被告はまったく信用できる説明ができない。