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 一方で、愛海さんが自殺したと思わせるものは何もない。誘拐もあり得ない。被告のラフォン弁護士も自殺や誘拐、その他の可能性を示唆しなかった。

「弁護側も、最後には、被告に自白させようとしたのではないかとさえ思われました」

 ジャカール記者の記事でその場面を再現するとこうだ。

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〈(検事が「遺体はどこか」と質問し、セペダ被告が「知らない」と答えた後で)「この質問、私もあなたに聞きたいです」とラフォン弁護士は始めた。セペダ被告の顔に浮かんだ驚きから判断すると、この場面は明らかに準備されてはいなかった。

「ナルミと再会して、言い争いがおこった、それが悪い結果になった……と想像できますか?」

「あなたが何をほのめかしているのかわかりません」と被告は言った。

「あなたは何か言いたいのではないですか?」

「Yo no la mate !」

 セペダ被告は叫んだ。4回。法廷が重い沈黙につつまれた。通訳も息を止めた。「私は彼女を殺していません」と数秒後に翻訳された〉

 これが唯一、セペダ被告が冷静さを失って叫んだ瞬間だった。

「被告と私訴原告の弁護士の間や、検事の間での論争のようなものはなく、緊迫する場面もありませんでした。すべての関係者の間で、お互いに敬意を払っているのが感じられました。

 裁判官も落ち着いていました。はじめはあまりに静かなので心配しましたが、必要な質問はしっかりしていました。ジョナタン・ダヴァル事件(2017年に起きた、妻アレクシアを殺しながら、葬列で涙を見せて演技した事件で、2020年11月に25年の禁固刑が言い渡された)の判事でもあったので、経験を積んだ人物だったのです。

 一方で、ビデオ監視の映像以外には、事件直後の取材で出てきたこと以上の新しい事実はありませんでした。

事件直後の封鎖された愛海さんの部屋

 どうやって遺体を運んだのか、というような議論もありませんでした。事件当時、トランクがなくなっていたので、遺体をトランクに詰めたのではないかと言われましたが、正直言って、一体どうなったのかは誰にもわからないでしょう。

 検事は遺体をドゥー川に遺棄したのではないかと指摘していますが、確信があるわけではありません。埋められたのか、捨てられたのか、トランクの中にあるのか、そうではないのか、セペダ被告が口を開かない限りわかりません」

そしてむかえた裁判の山場…「この男は世の中に出してはならない」

 裁判の山場は、7日目の4月6日におこなわれた愛海さんの母の陳述だったという。