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未解決事件を追う

「自分が来たことは口外しないように」午前3時に寮に響いた絶叫…筑波大女子学生不明事件の裁判で被告が語った“その日”

「自分が来たことは口外しないように」午前3時に寮に響いた絶叫…筑波大女子学生不明事件の裁判で被告が語った“その日”

黒崎愛海さん不明事件、セペダ被告の公判#1

2022/05/04

genre : ニュース, 社会

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 フランス・ブザンソン市で21歳の筑波大学生・黒崎愛海さんが行方不明になったのは2016年12月のことであった。

 あれから5年と4カ月、遺体も自白もないまま、4月12日、ニコラス・セペダ被告(現在31歳)に計画性のある意図的な殺人罪で28年の禁錮刑の判決が下った。

 2週間に渡る裁判では何が起こったのか。公判を取材した「パリジャン」紙のニコラ・ジャカール記者と事件を振り返っていく。

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自筆の言葉が書かれた愛海さんの写真

◆◆◆

 まず、事件の全容と裁判に至った過程をみておきたい。

「ナルミは(翌2017年の)1月から法学部に行く予定でした。経済とマネージメントを学ぶためです。

 12月5日の月曜日、ナルミは授業に来ませんでした。そのときは、寝坊かもしれないし、病気かもしれないと、特に心配はしませんでした。

 しかし、水曜日になっても出てこないので、心配した教師が生徒に様子を尋ねました。そこで、『メッセンジャー』でナルミに『どうして授業に来ないの? どこにいるの?』といった内容のメッセージをフランス語で送ったところ、ナルミのアカウントから『パスポートの問題があるのでそれを解決しようとしている』という答えがフランス語であったのです。

 ただ、その後も帰ってこない。結局、私たちは13日に捜索願を警察に出しました。同じ頃、ナルミの学生寮の学生たちも私たちとは別に捜索願を出しています」

愛海さん捜索の貼り紙。事件を第1面に出した地元紙を切りとって有志が貼ったもの。愛海さんの通っていたフランス語学校にて

 事件当時、フランシュコンテ大学応用言語センターのフレデリック・ペニラ所長(当時)はこう語った。

 フランシュコンテはフランスの東部の地方で、ジュラ山地を越えるとスイスである。その中心都市がブザンソンだ。丘のふもとに沿ってドゥー川が蛇行して馬蹄形に街を囲んでいる。川に面したこの学校で、黒崎愛海さんはフランス語を学んでいた。住まいは、丘の上の大学キャンパスにある学生寮である。

 愛海さんと最後に一緒にいたのがニコラス・セペダ被告である。当時26歳、南米チリ人で、筑波大学に留学歴があり、そこで、愛海さんと知り合った。警察の取り調べで「2015年2月21日から2016年10月6日まで19カ月と16日間恋人であった」と述べている。