現場で見つかった被害者女性は全身アザだらけ、複数の臓器も破裂…。2011年におきた殺人事件。なぜ女性の恋人だった犯人男はここまで激しい暴力をふるったのか? 2011年に兵庫で起きたおぞましい事件の顛末を、前後編に分けてお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/後編を読む)

恋人を死に至るまで殴り続けた凶悪男。彼と付き合った女性の多くが恐怖した、その人柄とは? 写真はイメージ ©getty

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「同棲中の彼女が胸を強く打って苦しいと言っている。胃液を吐いて、呼吸しなくなった。もう意識がない。助けて欲しい…」

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 深夜3時過ぎ、慌てふためいた男の声で119番通報があった。声の主は大岩和浩(当時22)。救急隊員が現場のマンションに駆けつけたところ、布団の上でぐったりしているA子さん(当時24)を発見した。

「何があったんですか?」

「ちょっとケンカして…」

 大岩は救急隊員に促され、救急車には同乗したが、病院に着くと、応対した看護師をはねのけるようにしてその場を離れ、行方不明になった。A子さんは全身アザだらけで、肝臓や膵臓が破裂。約6時間後に息を引き取った。警察は殺人事件とみて捜査を開始した。

 A子さんは高校時代に陸上競技で活躍し、走り高跳びで県大会2位になったこともあった。高校卒業後はスポーツ関係の専門学校に進学し、スポーツインストラクターを目指していたが、中退してパチンコ店員やゲーム店員をしていた。そんなときに知り合ったのが大岩だった。

精神疾患の母親にバットで殴られて育った男

 大岩は日本人の父親と中国人の母親の間に生まれたハーフ。両親は大岩が生まれる前に離婚し、父親については「警察官だった」ということ以外、何も知らされずに育った。

 母親は「別れた夫が息子を連れ去りに来るかもしれない」と怯えており、大岩に外出を一切禁止し、幼稚園にも通わせなかった。大岩が約束事を破ると、厳しく折檻した。

 小4頃になると、母親は精神疾患がひどくなり、育児放棄のような状態になった。酒癖も悪く、包丁を突きつけたり、バットで殴ることもあった。

 小5のとき、母親の入院をきっかけに、大岩は児童養護施設に預けられることになった。だが、そこは非行経験のある児童の吹き溜まりだった。凄まじいいじめを受け、何度も脱走したが、その度に連れ戻された。この体験から大岩が悟ったのは「不良グループに入っていれば、いじめられない」「自分がされた程度の暴力は許される」ということだった。

 中学卒業後、大岩は板前などをしながら、暴走族に入って、何度も無免許運転を繰り返し、道交法違反で検挙された。少年院にも2度収容されたが、それは不良としてのハクが付いたというだけだった。

 19歳のとき、働き始めたパチンコ店で、妻となる女性と知り合った。大岩は1週間後には肉体関係を持ち、3カ月後には結婚した。

 しかし、大岩は妻が他の男性従業員と話すだけでも「あいつに気があるのか?」とやきもちを焼き、街中で別の男性をチラッと見るだけでも激怒。「オレは家族に裏切られて育ったから、オレのことだけ見ていてほしいんや」と言いながら、厳格な“7カ条のルール”を設けた。