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山村 それがおかしいの。車で運ぼうとしたけど、意識がないので、運転手さんが、電話口で「いえ、まだ生きてはります。仏さんとちがいます」って何度もいって、葬儀屋さんから寝台車を頼んだんですって。あとで先生が笑っていってらしたけど、寝台車には、2人ついて行けるんですね、はじめて知ったけど。先生と子供が乗って、病院へ運んだんです。それなのに新聞に、知人の車でなんて意味ありげにかいてあったので、腹が立ったわ。

集中治療室に6時間…“最悪の事態”の可能性も

西村 でも、そんな経緯は山村さんは全然知らないんでしょう。

山村 ずっと昏睡状態で、気がついたのは集中治療室に入って6時間後の夜中の2時でしたから。その間に脳外科や内科外科の専門の先生があつまって最悪の事態を予想してたらしいです。

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西村 ぼくは何も知らなくって、翌朝はやく病院へ行ったんだけど、山村さん集中治療室に入っていて面会出来ないっていわれた。集中治療室の内と外をインターフォンでいであって、内から看護婦さんが「ご親戚の方ですか」ってきいたので、「いえ友人です」っていったら「それじゃダメです」(笑)。

山村 集中治療室というのは1日に1つの家族について2人、5分だけという規定があるのです。私の母のときも、弟と妹が入ったら私は入れなかった位厳しい。それで翌日来てくださったらもう退院しちゃってて。

山村さんの執筆風景 (『西村京太郎の推理世界』より)

西村 退院した日に会ったらとても元気だった。

山村 いや、あれは元気に見せていたんですよ。再起不能といわれたくなくて。あのとき吐き気はするし頭はガンガン痛むし。

西村 あのとき1+1はいくつだって訊こうと思ってたんだ(笑)。

山村 それは意識が回復してすぐ大丈夫だとわかりました。自分でも数かぞえたりしたし、おかしかったのはみんなが試してるのがわかったの。先生や看護婦さんも試すし、うちの子供まで試す。

西村 やっぱり1+1?

山村 そんなこときませんよ。どういう人覚えているかとか。

西村 あなたの名前は……なんて。

山村 「きのうはどこへ行ったっけ」とか。「何時ごろお家に帰ったのかなぁ」なんて。

西村 だけど、殴られてから病院に担ぎこまれたわけだから、その間のことは……。

山村 集中治療室で目が覚めて、すぐにここは病院だっていうのはわかった。ドラマにあるみたいに、少しずつスーッと目が覚めて来て、ぼんやりと、「ここはどこ?」なんて、あれはですね。自分でも書いてたけど、あんなことはないって思いました。

西村 こんどの事件で、山村さんには悪いけど、記憶喪失ってのが本当にあるんだってのがわかって興味深かった。

山村 私もちょうど連載小説に書いてたの。記憶喪失の女性が出て来るのを。でも、そんなにあるものじゃないと思ってた。

西村 作家は都合いいからよく使いますけどね。

山村 でも、本当に記憶喪失ってあるんですよ。何か隠しているなんて思われるの本当に心外です。マスコミにはもう、3角でも4角でも、複雑な男と女の事情が絡んでいるって書いて下さいなんていっちゃった。