2022年3月3日、91歳でこの世を去った作家・西村京太郎。「十津川警部」シリーズで親しまれ、鉄道ミステリーの第一人者としてヒット作品を次々と書き上げた同氏の軌跡は、『西村京太郎の推理世界』(文春ムック)にまとめられている。
ここでは同書から一部を抜粋し、西村京太郎と山村美紗の対談を紹介。1985年7月25日、山村美紗は京都の自宅マンションで何者かに襲われて記憶を失った。西村京太郎と山村美紗が推理の末にたどり着いた“犯人像”とは――。(全2回の2回目/1回目から続く)
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山村美紗を襲ったのは「知っている人」?
山村 このままだと警察の捜査も空き巣の居直りの線で落ち着いてしまいそうです。
西村 空き巣にしても、相当よく調べていますね。
山村 空き巣に殴られて、忘れちゃってわからない。犯人もわかんないというんじゃ推理作家としてどうも……。私が何か隠していると思われたほうが面目は立つんですけどね。
西村 記憶が戻ると面白いね。
山村 もし、知ってる人だったらよけいね。でも犯人の方は顔を見られたと思っているかもしれない。
西村 それでまたやって来てね、パッと目があって、「あんたなの」っていったらガンガンとやられちゃって……(笑)。
山村 それでも、あ、この人だったのかってわかるほうがいいんじゃないでしょうか。「あんた、殺す前に教えて、どういう事情で……、あ、ホント」なんて。納得してニッコリ笑ったりして。
西村 知ってる人だったら記憶のどこかに残って、なにかをきっかけに思い出すってことがありますよ。殺したつもりの相手が生きていて、しかも記憶を喪失している。いつか思い出すんじゃないかとビクビクしている。
山村 誰か身近な人で、ほんとは私が覚えているのにわざと黙っているとか……。
西村 いきなりうしろからやられたんだとすると思い出しようもないでしょう。
山村 でも、前にもいたような気がします。戸開けたら顔を見た。でもそんなに驚かなかったような気もするのね、その人に。
西村 じゃ知っている人だったかも知れない。