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 もうひとつ、新幹線のすごさは、その運行時刻の正確さだ。私の小説の犯人たちも、皆、予定通り電車が走るものとして、犯行計画を立てる。列車が、いつ来るか来ないか知れないギャンブルのような運行をするのだったら、私は、鉄道トリックを使ったミステリーを、まったく書けなくなってしまうだろう。

 今、私の仕事場からは、東海道新幹線が見える。執筆中でも目線を上げると、それが見えるように、あえて、三階建てに設計してもらった。いつも規則正しく、どんな日も休まずに走る、新幹線を見ることが好きなのだ。

新幹線の前で満面の笑みを浮かべる西村京太郎 ©文藝春秋

しかし、2011年3月11日の東日本大震災では……

 しかし、その光景が、ある日、完全に止まってしまった―あの3月11日、東日本大震災の日のことだ。毎日、当たり前のように見過ごしていたことが、いかに大切な日常だったのかを改めて知った。幸い、東海道新幹線はすぐに元通り走るようになった。そのふつうの光景が戻ってきたことにほっとする一方で、東北のことを考えると胸が痛む。

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 実は、2011年は新幹線の取材を、これまで以上にこなす予定だった。九州新幹線が全線で開通し、東北新幹線は青森までついにつながった。飛行機嫌いの私にとって、北は青森から、南は鹿児島まで新幹線で移動できるなんて、夢のような出来事だ。特に、「はやぶさ」には新しい車両も投入されたと聞き、早速、試すつもりで、各出版社とも話をしていた。

 震災でこれらの計画は、延期としていたが、最近、東北方面の鉄道復旧の話題も届けられるようになってきた。鉄道が通るようになることは、人々の生活が戻ることでもある。一日も早く、新幹線が東京から青森の間を、全線でつなぐ日がきてほしい。私自身、それに乗車する日を、本当に心待ちにしている。

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