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『金田一少年』人気絶頂の裏側で…「これじゃいけない」初代ヒロイン・ともさかりえ(42)が10代で直面した“岐路”

2022/04/24
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ともさかりえの心に響いた、つかこうへいの言葉

 俳優を続けるうちに、必要とあれば感情が動かなくても涙を流せたり、技術でこなすようにもなっていた。だが、このときの稽古では、本当に気持ちからセリフが吐け、涙が出たり、笑いが止まらなくなったりと、心から動くことができて新鮮だったという。

 公演中のある日、作者のつかが舞台を観に来て、終演後に出演者がそろって食事に誘われた。このときつかに言われた言葉は、ともさかの心に深く刻まれる。

『投稿ともさか天国 ともさかりえ写真集』(2002年、ワニブックス)

《その時、つかさんは「偉かったな、おまえ、ちゃんと立ってられて」と言ってくださいました。ちゃんと真っ直ぐ立ってられてって。「立つ」というのは、とても深くて大きな意味がある言葉です。つかさんは、役者がうろちょろ舞台上で動くのを嫌います。芯に立って、真っ直ぐ正面切って、それが主役だ。余計なことは、まわりの人間にまかせておけばいいんだから、おまえは正面切って立ってろって。だから、つかさんから「ちゃんと立ってた」と言われて、本当に嬉しかったですね》(※2)

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23歳で最初の結婚、男児を出産

 このあと2003年に23歳で最初の結婚をし、翌年には男児を出産する。産休を経てドラマ『anego[アネゴ]』(2005年)で俳優に復帰した。子供がまだ授乳中の1歳半だった2006年には、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)演出の翻訳劇『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』で、大竹しのぶ・段田安則・稲垣吾郎との4人芝居に挑戦する。4人芝居というだけでもハードルが高いのに、共演者が錚々たる顔ぶれとあって、《ライオンの檻に入れられたような気分でした(笑)》とのちに語るほどだった(※3)。

『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』

 KERAやつかこうへいにしてもそうだが、彼女の仕事相手には、どこか一癖ある劇作家や演出家が目立つ。『金田一少年の事件簿』の監督のひとりだった堤幸彦も、同作以来、独特のセンスで映像の世界で異彩を放つ存在だ。堤の弟子筋にあたる演出家の大根仁とも『金田一少年~』に出演していた頃に出会っている。

 ともさかが大根の作品に初めて出演したのは、2002年にKERAの同名戯曲をドラマ化した『室温~夜の音楽~』(深夜番組『少年タイヤ』で放送された1作)が最初だが、その後再び一緒に仕事をしたのは映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018年)と、15年以上もあいだが空いた。

 このとき、彼女が演じたのは、90年代にコギャルとして青春を謳歌しながら、その後紆余曲折を経ていまは荒んだ生活を送っている女性だった。大根はこの難しい役を誰にやってもらうか考えるうち、実際に本人が高校生ぐらいのときから大人になったいまでも知っている人がいいと思い、それならただ一人、りえちゃんしかいないと気づいて抜擢したという(※4)。彼女としても、90年代を舞台にした作品で、ちょうどその頃出会った大根と、大人になったタイミングで一緒に仕事をすることに不思議な縁を感じたようだ(※5)。