世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。
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横綱の暴力沙汰が原因で角界は大激震状態だが、この種の事態が起きるたびに横綱の「品格」が取り沙汰されるのは、相撲がスポーツであると同時に神事の面を持つからだ。しかし、城平京の『雨の日も神様と相撲を』ほど、神事としての相撲が不思議な角度から描かれた小説がかつて存在しただろうか。
両親を事故で失った中学生の逢沢文季(ふみき)は、久々留木(くくるぎ)村に住む叔父のもとに引き取られる。その風変わりな村では、カエルが相撲を好むとされ、神として崇められていた。そして彼は、カエルが相撲を取っている信じ難い光景を目の当たりにする。村にいるカエルたちは本当に神様だったのだ。彼らの言葉を聞き取れる旧家の娘・遠泉真夏は、カエルの神様の花嫁になる宿命だった。
相撲に関する伝承や民俗学的考証で裏打ちされているとはいえ実に奇天烈な設定だが、そこで展開されるのはスポ根とロジカルな頭脳戦の合体である。女の子のように小柄な少年である文季だからこそ相撲に勝つため身につけた知恵があり、それを村の住人のみならずカエルの神様たちにも伝授し、一目置かれる存在となってゆく。彼の頭脳は、村境で起きた死体遺棄事件の解決にも生かされるし、そればかりか、村に伝わる因習さえも合理的に改革することになる。しかし、そんな彼でも見落としていたものがあった。それは果たして?
一見ひ弱で何事にも消極的に見える文季が、ルールを逆手に取り、ロジックを弄することで局面を変えてゆくプロセスは痛快そのもの。ファンタジー的設定と論理的な主人公の取り合わせという、著者ならではの作風が楽しめる良質な青春小説だ。(百)