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チームメイトいわく“フツーのおじさん” ベイスターズ・大貫晋一28歳「勝ち続けてきた人生ではない」からこその素顔

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/05/03
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勝ち続けてきた人生ではないからこそ

 そして3回目の取材となった、冒頭の2021年1月23日。この時は、ホームで試合がある日の野球選手が、朝起きてから帰宅して就寝するまで、どんなことをしているのか教えてもらおうという企画です。

 登板日の大貫選手は、家を出る前と試合開始前に、自分を落ち着かせるために必ずコーヒーを飲むということでした。そこでダメモトでコーヒーを飲んでいる写真を自撮りでお願いしますとリクエスト。図々しいお願いにもかかわらず、面倒くさがらずに応じてくれるどころか、「いつ頃までにあったらいいですか?」と、逆に気を使ってもらうありさま。

 実は今年の取材でも「子どもの頃の写真を貸していただけませんか?」というお願いに、キャンプ直前にもかかわらず「わかりました! 実家にあるはずだから探してみますね。いつ頃までに必要ですか?」と快諾いただきました。

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 プロ野球選手になるほとんどの人は、子どもの頃からスポーツ万能で、地域で一番野球がうまかった人たちです。「オレがオレが」とグイグイくる、肉食系の人が多いと思っていましたが、大貫選手はどちらかというと草食系のイメージです。

 大貫選手のこのような性格は、おそらくアマチュア時代に培われたものだろうと思われます。経歴を見るとけっして野球エリートではありません。桐陽高校時代は甲子園出場はかなわなかったし、日本体育大学では2年時にトミー・ジョン手術を受け、1年以上投げられない日々を過ごしています。4年時に復活はしましたが、その時にはすでに1年生の松本航(現・西武)がエース格として活躍していました。卒業後は社会人の新日鐵住金鹿島へ。プロから注目されるようになったのは社会人3年目の春。都市対抗野球1回戦で完封した頃からでした。それまでは「自分がプロになれるとは思っていなかった」そうです。

「人は悲しみが多いほど、人には優しくなれるのだから」とは、金八先生の主題歌ですが、勝ち続けてきた人生ではないからこそ、相手の気持ちを鑑みようとする。その優しい性格は、野球にどのように影響するのでしょうか。相手の気持ちを考えることがプラスに働くのか、逆に考えすぎてマイナスに働いてしまうのか。

 今年の横浜LOVEWalkerの取材で「チームメイトで頭がいいと思う人は?」というアンケートを取ったのですが、砂田毅樹選手ほか何人かが「大貫さん!」と即答しています。その理由として、「あの投球スタイルは、頭を使わないとできません」「プロの投手ならみんな考えて投げていますが、大貫さんはレベルが違う」というものでした。

 故・藤田元司氏が巨人監督時代に、伸び悩んでいた斎藤雅樹氏を諭したように、「優しい」と「気が弱い」は違います。マウンド上の大貫選手の顔つきは、取材時のニコニコした柔和なものではありません。目元は隈取をした歌舞伎役者のようにキリッと引き締り、勝つか負けるかの真剣勝負に挑む男の顔です。

 最初は名前が似ているということで注目しはじめた大貫選手ですが、現在は横浜大洋時代からのファンとして応援しています。一昨年は10勝、昨年は6勝とはいえ、2年連続でチームの勝ち頭です。今年は5月2日現在で未勝利ではありますが、素人目ながら内容は悪いようには感じません。マウンドで見せる大貫投手の顔が試合終了のコールと共に、あの柔和な笑顔に、そしてあの細い目が、もっともっと、糸のように見えなくなるくらい、細くなる瞬間を楽しみにしています。

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