その家は住宅街の中に今も変わらず存在していた。誰も住む者がいなくなってから、20年以上の年月が経過していることもあり、庭はまったく手入れはされていない。

 私が初めて取材で訪れたのは5年前のことだった。その時と比べて、玄関の周囲には竹が密生していた。その様は、刑場の露と消えた家の主が、頑なに来るものを拒んでいるようにも見えた。そして、廃墟となった家は、住宅地の中にあるのだが、生活の匂いを感じさせない様は当時と変わらず、ここだけ時が止まっているようにも思えた。

 私が訪ねていたのは、福島県須賀川市にあるおぞましいとしか言いようがない事件の起きた現場である。

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事件現場となった工藤の家は、住宅街の中にあった(2017年撮影) ©八木澤高明

「悪魔祓い」の名目で暴行、6人を殺害

 その事件は1995年7月に発覚し、「福島悪魔祓い殺人事件」と呼ばれている。家の主は、祈祷師をしていた江藤幸子。彼女は、10人以上の信者たちとこの場所で寝食を共にする宗教家であった。江藤は悪魔祓いをすると言っては、太鼓のバチで叩くなどして、次々と6人の信者を殺害したのだった。

 信者の中には、一家でこの家に暮らしていた者もいて、夫が妻の殺害に加担したり、子どもたちが死んだ両親の傍で暮らすなど、異様な状況下で生活を続けていた。

 1995年には、オウム真理教の麻原彰晃が逮捕されたこともあり、その陰に隠れてしまった事件ではあったが、両者は宗教を隠れ蓑にした犯罪という点において、共通性があった。

 それにしても、本来なら人の魂を救済すべき宗教家が、なぜこのような陰惨な事件を起こしてしまったのか、祈祷師の江藤幸子の半生を紐解いてみたい。