韓国の首都・ソウルには、貧困層が住む最底辺の住宅「チョッパン」というものが存在する。そこには、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』でも描かれた韓国社会の格差や貧困の実態が如実に現れているのだ。

 ここでは、韓国最底辺住宅街の人々に迫った韓国日報の記者、イ・ヘミ氏の著書『搾取都市、ソウル ――韓国最底辺住宅街の人びと』(伊東順子 訳、筑摩書房)から一部を抜粋。著者が取材を通して明らかにした若者の住居貧困の“リアル”を紹介する。(全3回の2回目/1回目から続く

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郵便受けと計量器が家について語ってくれること

「1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ……17。この建物に17の家があるって?」

 じっとしていても背中が汗びっしょりになる2019年7月のある日、同じ部署の先輩とインターン記者、そして住居権団体〈なめくじユニオン〉の活動家たちと一緒に城東(ソンドン)区にある漢陽(ハニャン)大学の学生街である沙斤洞(サグンドン)を訪ねた。この地域では、2015年から2017年まで壮絶な「学生寮新築反対運動」が起こり、地域の住民たちと漢陽大学(※編集部注:ソウル市内にある私立大学。ランク的には韓国では上位10以内に入る。以下、(※)内はすべて編集部注)の在学生との間の対立が激化した。

 私たちに与えられたミッションは、大学生の住居空間として利用されているワンルーム住宅751棟の郵便受けと電気・ガスの計量器の数をすべて記録すること。この数値が1つの建物に「何世帯」が居住しているかを示すバロメーターであり、これを建築許可当時の内容がわかる建築物台帳と見比べて「違法分割」の有無を確認するというものだった。2018年に児童の住居貧困という特集で参考にした研究で使用された方法をもとに着案、これを通じて若者の住居実態を明らかにしようとするものだった。やる気は満々だったが、照りつける日差しは容赦なく、足を踏み入れた時点からすでにブラウスは「リュック」の形にびっしょり濡れていた。

 しかし大量の脱水も調査を止めることはできなかった。計量器を記入して回れば回るほど、この街は異常だった。それなりの「住居難民経歴」を誇るだけに、以前はよくワンルームを見て回ったが、10年前には1つの建物に10世帯以上もあるような家はなかった。だいたい半地下から地上2階まで、1つの階に2世帯ずつ6世帯、そして最上階である3階には大家さんが住んでいるのが普通だった。たまたま1つの階が3世帯のワンルームに住んだことがあるが、その時でも全体の世帯数は半地下、1、2階で9世帯と3階の大家さんの家まで入れて10世帯が最大だった。