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 回った家は多世帯住宅(※複数世帯が一緒に暮らす、マンションより小規模の集合住宅)によくある、赤いレンガの壁の建物だった。外から見た限りは異常は発見しにくい。ところが建物の側面にベタベタと付けられたガス計量器を目にした瞬間、室内用の物干しも広げられないほど狭い、4~5坪の家に入ってくる若者の姿が目の前に広がった。便器と洗面台がくっつくほど狭いユニットバスでは、シャワーを使うだけでトイレ全体を掃除してしまうことになる。それまで何人が使ったかわからない軋きしむ音を立てるベッドに寝転び、缶ビール1本で自分を慰める大学生。それはまさに5、6年前の私の姿ではなかったか。

この写真はイメージです ©iStock.com

 階ごとに廊下があり、それを中心に7、8つの部屋が刑務所のように並んでいるのは、どうも最近の流行のようだった。さらに事前調査の段階で見たオンラインの部屋探しサイトには「ミニワンルーム」「超ミニワンルーム」という聞いたことのない名前が登場し始めていた。

「はあ? そもそもワンルームがミニなのに「ミニワンルーム」って同じ言葉の繰り返しだよ」

 しかしギャグのネタなどではなかった。街の隅々まで歩き回り外の郵便受けと計量器を記入しながら、「ミニワンルーム」は実に妥当な造語だと直感することになった。

 数字を入力するのに2ヶ月ほどかかった。暑い夏の間、路地を歩き回ったせいで夏バテしてしまい気力がもたなかった。それ以降は涼しい時間帯に効率よく回ることにしていた。

 その間にメンバー構成にも変化があった。社内人事などでチームにも一波瀾あった。企画段階から一緒にやってきた先輩が他の部署に異動になった後は、1人でしばらく落ち込んだり悩んだりもした。環境が変わったことで、これまでの作業が切れ切れになって、年内に記事が出せるかどうか疑問だった。でも記者ができることは、きまじめに足を運んで原稿を書くことだけであり、時々刻々と湧いてくる雑念は振り切って、同じことを繰り返すしかなかった。

「なにこれ? 1、2、3、4……34個? ここはなに、34も家があるってこと?」

 数え間違わないように、小さく声に出しながら計量器を数えながら、すごい数に思わず「ふう」とため息が出てしまった。いくらなんでも1つの階に7軒もの家があるようには見えない面積だった。

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