AIで“生まれ変わった”手塚治虫と「21世紀の新作」
そして人の暮らしの中に入ってくるロボットにとっては、“会話”もひとつのポイントだ。そんな中で、「こころって、なんだ?」ゾーンの締めくくりで現れるのが、とてつもなくリアルな、というか人そのものとしか思えない造形をしている「ジェミノイドHI-4」。開発を主導している大阪大学の石黒浩教授本人にそっくりなロボットだ。
今回の特別展では、この「ジェミノイド」が2体(HI-4とHI-2)並んで、来場者もジェミノイド同士の議論に参加することができる。人間同士のリアルな会話とはまだまだ距離を感じるが、人間そのものの見た目のロボット2体と会話をしてみると、なんとも不気味な気持ちになってくる。これがさらに進化していくと、もはや人間とロボットの境目すらも曖昧になっていくのではなかろうか。そして、それって結構危ないことのような……。
などと思いを巡らせたところで、「きみとロボット」展は終盤へ。テーマは「いのちって、なんだ?」。そこでいきなりインパクトを与えてくるのが、夏目漱石とレオナルド・ダ・ヴィンチのアンドロイド。動くわけでもなく喋るわけでもないので蝋人形のようなものといえばそうなのだが、隣には手塚治虫の作品群を元にAIと人間が共同で創作した「ぱいどん」やいつだったかの紅白歌合戦で登場した「AI美空ひばり」が並ぶ。
「大切な人が亡くなったあとに、思考も挙動も同じアンドロイドを作れるとして、あなたはそれを望みますか?」
もしも近い将来これらが融合したら、見た目も思考も夏目漱石そのままのロボットが誕生してしまうかもしれない、ということだ。AI技術がますます発展すれば、夏目漱石アンドロイドが書いた夏目漱石の新作、なんてものが書店に並ぶ日も……。こうなってくると、「最近のロボットってすごいよね。ドラえもんとか鉄腕アトムとかガンダムが実現するかもってこと?」などとのんきなことを言っていられない。
「“命”をテーマにすると、いろいろ考えさせられることがあると思います。人間ひとりひとりの思考とか会話とか挙動がロボットでバックアップできるようになった場合、それはもはやバックアップと呼べるのかどうか。大切な人が亡くなったあとに、思考も挙動も同じアンドロイドを作ったときに、それは本人なのかまったくの別物なのか。来場者にもそういったことを少しでも考えていただくというのが、今回の特別展の狙いのひとつなんです」(宮田さん)