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 ※つづいて2本目の「暇は価値を生んだ」をご紹介します。

暇は価値を生んだ

 小学校低学年の頃、私は明らかに学校嫌いだった。幸運なことに? 私はお腹は丈夫だったが呼吸器は弱かった。冬にはよく風邪をひいた。今日は学校を休めるということは、私にとって幸いな日だった。

 その上、そういう日には母が本を1冊買ってくれた。「風邪をひいたご褒美」と母ははっきり言ったが、私は学問的な性格ではなかった。

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 江戸川乱歩や大下宇陀児の推理小説を1冊買ってもらうと、私はニコニコして再び蒲団(ふとん)にもぐり込んだ。

 私は明らかに学校に行くのが嫌いで、家にいるのが好きな子だった。しかし今の人たちは大人も子供もそうではないらしい。彼らは明らかに外に行けない状態が発生することを恐れて問題にしている。

 彼らはコロナを恐れているというより、家から外に出ないことを恐れている。外へ出られないと米や醬油(しょうゆ)がなくなるわけではない。都会では、100メートルも歩けばインスタント食品や缶詰を売っている店も自動販売機もある。2日や3日自宅に籠城するくらいの食べものは、今の時代誰でも手に入れられる。それなのに外出ができないことを恐れるのである。

曽野綾子さん ©文藝春秋

 家に落ち着ける自分の部屋がないからだ、という説明をする人もいる。確かにそういう場合もあるだろう。しかし昔の学生は3畳1間が自分の部屋だという人も珍しくなかった。万年床に入って本を読む分には、10畳だろうと3畳だろうと大した違いはない。

 しかし問題は、3畳では1日家にいるのがむずかしいと感じる事が、世間に認められそうになってきていることだ。