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岸田 私にとっては、アートも答え合わせだったんです。ここに気付けば褒められる、という。

 でも、この本では、「一緒の空間にいて、一緒に感じるだけで、それはともに鑑賞したことになる」ということにびっくりしました。

川内 絵の前で全然関係ない話してますからね(笑)。ときどき、本の感想として、「私は美術館は静かなほうがいいし、1人で見る派だから、美術館で会話することには賛同できない」って言われることがありますが。

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岸田 美術警察やん(笑)。

川内 1人で見たい方はどうぞお1人で(笑)。「1人で見る」と「みんなで見る」は別に二項対立ではない。こういうことも含めて、それぞれのチョイスが尊重される成熟した社会になるといいなと思いますよね。

 

いいか悪いかは本人次第

岸田 ダウン症の弟は、小学校の時に普通学校に行っていて、教科によって、一般クラスと特別支援学級を行き来していたんです。

 弟は字がわかりませんから、親御さんの中には、「わからないのにみんなと一緒の授業を受けさせるのはかわいそうだ」という意見もあったんです。でも、いいか悪いかって、本人次第だと思うんですよ。

 黒板に書いてあることがわからなくても、みんなと同じ教室にいて、喋ったらコラーッて注意されたり、みんなと何かを話し合ったり。その教室の空気の中にいたことは、弟にとってすごく大事なことだったなと思っていて。

 うちの弟、めちゃめちゃ空気が読めるんですよ。食事中になんか空気悪いとき、「美味しいわこれ~」っておどけて言ったりとか。私が付き合う男も、いい男か悪い男か一瞬でわかる(笑)。

 モラハラとか暴力的な気質がある男とは全く仲良くならない。

川内 へえ~!

岸田 見ていると、自分を子供扱いしてくるか、ちゃんと人として尊重してくれるか、を感じ取っているんですよね。

川内 見た目がカッコいいとか表面的なものではない、別のフィルターがあるんでしょうね。で、初対面でもダイレクトに奥の部屋に行ける。

岸田 そうそう!

 そういう弟に、私が自分の常識を当てはめようとしてもわからないんです。だから、わからないってことをわかろうとしました。わからないところも含めて、弟のことをわかろうと。

 だから、同じ空間に生まれた会話を楽しむだけでいい、っていう白鳥さん的なわかりあい方を知れたことは、美術鑑賞に限らず、私にとっては救われた瞬間でした。