オシムさんに代表に選ばれたときは本当に嬉しかった
大久保 チームは違うけど、人間的度量の大きな監督だなとJリーグで戦っていた時から感じていました。だから、オシムさんに代表に選ばれたときは本当に嬉しかったし、サッカーの持つ力をオシムさんから学びたいとも思っていましたね。でも、僕が合流して間もなく病気で倒れられてしまった。それでも僕にとってはオシムさんと過ごした時間はとても貴重です。
――オシムさんの言葉は哲学者のようでもありました。
大久保 そうなんです。でも、難しい話をそのまま論じるのではなく、ウイットに富んでいるし、ユーモアもあるので、ストンと心に響く。とにかく比喩がうまいんです。
その一方で気弱なところもあり、PK戦になると試合中にも拘わらずロッカールームに引き上げてしまうんです。ピッチサイドで見守るほどの心臓は持ち合わせていないって。確かに僕らもPK戦はドキドキしますけど、監督が蹴るわけじゃないし(笑)。
でもそういうところが多くの選手に慕われた部分でもあったんでしょうね。完璧な監督だったら選手も近寄りがたいけど、オシムさんは怖いけどチャーミングという両極端の部分を、高い次元で融合させていたから、僕らサッカー選手だけでなく、多くの日本人にも愛されていたんじゃないですかね。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの連邦離脱戦争も体験しているせいか、処々の決断に揺らぎがなかったと思います。
僕は20年の現役生活の中で多くの監督に接し、その間10年以上日本代表選手として世界と戦ってきましたけど、オシムさんは日本サッカーを大きく変えてくれた功績者であると断言できますね。
心よりご冥福をお祈りします。
撮影=深野未季/文藝春秋