北海道・知床半島の沖合いで4月23日に発生した観光船「KAZU Ⅰ」の事故。同船の運航会社「知床遊覧船」を巡っては、5月3日に関係先が業務上過失致死の疑いで捜索を受けるなど、その安全管理体制に問題がなかったか捜査が進んでいる。
同社で事務員を務めていた元従業員の渡辺瞳氏(仮名)が「週刊文春」の取材に応じ、知床遊覧船を桂田精一社長(58)がどのように経営していたか、その内情を語った。
「無事故であることが誇りだったのに」
渡辺氏が「知床遊覧船」に入社したのが、2018年のことだった。
「採用に際して、性格診断テストを受けました。観光船の運航は安全が第一ですので慎重な性格である必要がある。第一印象としてきちんと人をみる、ちゃんとした会社だなと思いました」(渡辺氏)
渡辺氏が主に従事したのは、操船ではなく受付や客の案内など「知床遊覧船」の運営業務。日給は約8000円だった。
「出船する日は朝7時から夜6時頃まで働きましたね。当時のベテラン船長はとても安全面に気を配り、頻繁に港で海に潜って、船底に傷がないのかを確認していました。責任感が強い当時の船長は天候の判断が早く見極めも的確。一緒に出ている他の船会社の遊覧船に『天候がまずいから帰ろう』と伝えるくらいだった。無事故であることが誇りだったのに……」
案内業務では受付で運航についての説明を行った。
「『もし天候が悪化した場合は引き返すことがあります。その場合はたどり着いた航程までの料金となり、差額は返金します』とお客様には告知していましたね」