4月23日、北海道・知床半島沖で消息を絶った遊覧船「KAZU I」。同船を運航する「知床遊覧船」で船長を務めていた松村雅史さん(仮名・34)が「週刊文春」の取材に応じ、「知床遊覧船」の企業体質や社長とのやり取りについて明かした。
松村さんが、同社に入社したのは約12年前のこと。同社を創業した親戚の伝手をたどり、船に乗せてもらったことがきっかけだったという。
「知床遊覧船」前船長の告白
「同業他社の船長や地元の漁師たちに操船を教わりました。休日の空いた時間に、ベテラン船長の横で操船の練習をさせてもらうのです。ウトロは狭い漁港の中に漁船から釣り船、観光船までとたくさんある。トップシーズンになると、かなり船が密集した港になるんですよ。海上には定置網のロープなどの浮遊物があって、運航にもかなりのテクニックが必要なんです。そこで他社の船にも乗せてもらいながら、操船技術を叩きこまれました。地元の漁師さんには『いやあ、明日どうだべ?』と天候や海の状況を相談することもありましたね」
松村さんが初めて舵を握るまでに、3年の月日を要したという。
「僕の他にもう1人の船長、営業担当、事務員、駐車場係など計4名の顔なじみのスタッフがいました。その方たちと一昨年のシーズンまで、遊覧船『KAZU I』と『KAZU III』を運航してきました」
そんなさなかの2017年5月、同社は新たな舵をきる。高齢となった創業社長が、約4000万円で事業を譲渡。その経営権を買い取ったのが、地元のホテルチェーン「しれとこ村グループ」の代表取締役社長・桂田精一氏(58)だった。
高校卒業後、桂田氏は茨城県工業技術センターで陶芸の技術を学び、都内の大手企業から支援を受けて芸術活動に邁進。2005年に知床へ帰郷し、2015年4月に家業を継いだ。
「経営者が代わって2年目の頃だったと思います。桂田社長が『宿泊のアクティビティの一つとして陶芸体験ができたらいいよね』と言い出したんです。そこで僕たちも手伝って、陶器を焼く窯を『しれとこ村グループ』の倉庫の近くに作りました。でも大して稼働しないまま頓挫してしまった」
この頃から、事務所スタッフの労働環境に変化が現れ始める。まず、振る舞われていた賄いに変化が起きたという。