近年、着々と市場を拡大している「女性用風俗」。大学生や専業主婦、会社員のような“普通の女性たち”が気軽に利用するようになった背景には、深刻なセックスレスや女性の社会進出、性経験年齢の高齢化などの社会的な要因が関係している。
ここでは、女性用風俗の全容に迫ったノンフィクション作家・菅野久美子氏の著書『ルポ 女性用風俗』(筑摩書房)から一部を抜粋。20年以上セックスレスだった53歳の主婦が女性用風俗を利用した経験談を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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湧き上がってきた狂おしいほどの女としての性衝動
「母さん、今まで心配かけてきてごめんね。僕は自分の人生を歩いていくから、母さんは母さんの人生を歩んでください」
就職が決まった日、息子はそう言って床に膝をついて泣き崩れた。
ああ、そうか、ようやく息子は親離れしたんだ。ずっと小さいままだと思っていた。これまで夫と共にがむしゃらに働き一人息子の学費を稼いで、さらに家事にと明け暮れていた。しかし気がつくと自分は中年になり、息子は大きくなって、立派に私から卒業しようとしている。これからは、息子の学費も稼がなくていい。私の母としての人生は終わったんだ――。
大きくなった息子の姿を見て頼もしく思う。その反面どこか寂しくもあり、心にぽっかり穴が空いたようだった。これまでの人生でずっと張り詰めていた緊張の糸が、プツンと切れた。
そんな喪失感とともにムクムクと湧き上がってきたのは、狂おしいほどの女としての性衝動だった。それが40代も後半に差しかかろうとする中年期に、突如として襲ってきたのだ。
「今思うと、これまで妻や母として生きるのに必死で、ずっと女の面を封印してきたんでしょうね。それが息子が離れた途端、突然自分の内部に溢れ出してきた。性欲がぶわっと湧いてきて、それ以降は食事をする気にもならないし、夜も眠れなくなって、自分の欲望を抑えきれなくなったんです」
佐伯幸子(兼業主婦・仮名・53歳)さんは、そう言うと真剣に私に向き合った。幸子さんの外見は大人しそうな普通の主婦といった印象である。そんな幸子さんから、開口一番飛び出したのは、「ぶわっ」とした性欲の話だった。