近年、着々と市場を拡大している「女性用風俗」。大学生や専業主婦、会社員のような“普通の女性たち”が気軽に利用するようになった背景には、深刻なセックスレスや女性の社会進出、性経験年齢の高齢化などの社会的な要因が関係している。

 ここでは、女性用風俗の全容に迫ったノンフィクション作家・菅野久美子氏の著書『ルポ 女性用風俗』(筑摩書房)から一部を抜粋。女性用風俗の老舗店、名古屋萬天堂でセラピストを務めるけんさん(43歳)の本音と実情を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く

この写真はイメージです ©iStock.com

◆◆◆

ADVERTISEMENT

43歳の女性用風俗のセラピストの本音

 女性たちの心と体を、真っ正面から受け止める職業――、それが女性用風俗のセラピストだ。なぜ、男たちは女性用風俗で働こうと思ったのか。そして日々彼らは、どんなことを感じているのか。この章では彼らが抱える苦悩や葛藤、そして喜びなどに肉迫することで、「売る」男性たちの本音とその実情に迫った。

 女性たちの欲望は、多種多様だ。女性用風俗の世界において、高身長で誰もが振り向くようなイケメンのセラピストは確かに圧倒的な人気を誇る。

 しかしそんな艶やかなルックスではなく、自らのテクニックのみを武器にして女性たちを虜にするユニークなセラピストたちもいる。女風の取材を始めてすぐに、ある女性ユーザーから、ぜひこのセラピストを取り上げてほしいというあつい要望が届いた。

 それが、女性用風俗の老舗店、名古屋萬天堂でセラピストを務めるけんさん(43歳)だ。けんさんは、とっておきの「武器」を売りにしている一風変わったセラピストだ。けんさんのツイッターのプロフィールには「三枚舌から繰り広げる、舌の魔術師」という言葉が躍る。

 その名の通りけんさんの得意技は、クンニリングスである。聞くとその常人離れした舌遣いを求めて、けんさんを指名する女性たちが後を絶たないのだという。けんさんとは何者なのか。けんさんの居住地が名古屋でなおかつコロナ禍だったため、Zoomで取材をさせてもらった。

 画面の向こうに現れたけんさんは、とても人懐っこい笑顔で、こちらに手を振っている。

 けんさんは、見るからに気さくで素朴な感じの男性だ。