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元AV男優のセラピストとの行為は「自分の体に何が起きたかわからなかった」

 女性用風俗店は、それぞれ様々なキャンペーンを行っている。ある日、別のお店の「平日昼顔デー」というキャンペーンを見つけた。これなら昼間だから家を抜けられるし、前の店より金額もかなり安い。しかも、プロフィールに元AV男優と書かれているセラピストがいた。今度はこの人を指名してみよう、そう思って早速会うことにした。

「僕は1日1人しかお客さんは受け付けないんです。それは、自分も相手のことを好きにならないと、そういう行為はできないから。今日1日幸子さんのことを好きになってもいいですか?」

 現れた男性は会うなりそういって、幸子さんをときめかせた。なんて素敵な人なんだろう。元AV男優という肩書きは伊達ではなかった。そのセラピストは会った瞬間から女性との甘い時間と空間を作りだすことに長けていた。見事に魔法にかかった幸子さんは、まさしく身も心もシンデレラとなったようだった。

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「今日のこの時間だけは、幸子さんをずっと好きでいさせてくださいね」

 そう言うと、セラピストは部屋に入るなり幸子さんを抱き寄せた。

「僕の膝の上に座ってください」

「いや、私、重いから」そう言って遠慮しても、「大丈夫だから、座って」と抱き寄せてくる。

 セラピストは幸子さんをだっこする姿勢で、やや強引に膝の上に座らせた。そして、ゆっくりと体を密着させた。これから、私の身にどんなことが起きるんだろう。そう思うとドキドキが止まらなかった。

「その人は、1人目の人と全然違ったの。性感では指を入れられたんですけど、久しぶりにこんなに声を枯らしたというくらい絶叫した。すごく気持ちよかった。自分の体に何が起きたか、わからなかったんですよ。そのぐらいすごかった」

 女性は、男性の所作を思いのほか観察しているものだ。女風のセラピストの場合、日常的な何気ない行動がマイナスポイントになることも多い。例えば、ホテルにあった水のペットボトルを当然のごとく持って帰る、飲食物を汚い状態のまま放置する。靴を揃えない。

 細かいことだが、こういったがさつさに女性たちは幻滅する。そんな振る舞いは女性たちの心を萎えさせ、その細かい積み重ねにより、リピートに繫がらなくなったりする。しかし、そのセラピストは動きのすべてがスマートだった。

 セラピストは行為が終わった後、ベッドメイキングをして、使用したタオルを自然な動作で畳んでいた。幸子さんのロングブーツの着脱にもサッと手を貸し、ぐちゃぐちゃに乱れた服をきれいに畳んで手渡してくれた。完璧なエスコートだと感じた。

「僕、この後お客さん取ってないんです。だから、残りの時間はギリギリまで幸子さんの恋人でいさせてください」

 そう言ってホテルを出ると幸子さんの荷物を当たり前のように持ち、恋人つなぎをしながら、駅まで見送ってくれた。胸がときめいた。それでも多忙な兼業主婦に、タイムリミットはやってくる。夕食の時間が迫っている。幸子さんは、その日、新宿伊勢丹で総菜を買い込んで慌てて帰宅した。しかしそれ以降、世界がまるで違って見えた。それから、度々彼のことを指名するようになる。

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