摂食障害、アルコール依存症に苦しむ妻を20年近く介護し続けてきた、朝日新聞記者の永田豊隆氏。その体験を克明に綴った朝日新聞デジタルの連載は100万PV超の大きな反響を呼び、2022年4月に『妻はサバイバー』(朝日新聞出版)として書籍化された。

 ここでは同書から一部を抜粋し、アルコール依存症を再発してしまう妻(当時46歳)に対して、永田氏がどのように向き合っていたのかを紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く

この写真はイメージです ©iStock.com

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アルコール依存症に苦しむ妻

 アルコール依存症の治療は完全に酒をやめる「断酒」が原則とされる。最近では酒量を控える「節酒」を軽症者向けの目標にするケースもあるそうだが、断酒よりも険しい道のような気がする。酒量をコントロールする脳の機能が壊れるのがこの病気だからだ。

 そんなことを思い知らされたのは、退院から間もなく妻が飲酒を再開してからの日々だった。

 はじめは休肝日をつくり、節酒に努めていた。しだいに飲まない日がなくなって酒量が増え、1年もたつと頻繁に酔いつぶれるようになった。約9年にわたり診てくれた精神科病院の主治医は「同じ精神科でも、アルコール依存症は専門性が高いから」と専門的な治療を勧めた。

 2018年9月、依存症専門の医療機関に通院先を変更した。4年前に通った専門病院とは別のところだが、専門医の診察、院内の治療プログラムと院外の自助グループへの参加が柱であることは変わらない。

 妻は専門医になかなか心を開かなかった。

 今はどれぐらい飲んでいますか?

「覚えていません」

 最近はいつ飲みましたか?

「覚えていません」

 せめて酒量をノートにつけてみませんか?

「……」

 プログラムにも、自助グループにも、たまにしか参加しない。いつも酔っているため、参加しようにもできなかった。

 ただ、「飲む」と「やめる」の間で揺れているのはわかった。自宅に来たヘルパーに「お酒をやめたい」と涙を流し、12月には「もう一生飲まない」と言って専門病棟に入院した。しかし、今回も1泊で退院を強行した。3度目だ。