「ご相談、ご報告がある」
フワちゃんの楽屋を訪れたスタッフが意を決したように話し出す。フワちゃんと浅草の街ブラロケをしたというが、「撮影したデータが全部なくなってしまった」というのだ。「頑張ってなんとかしたんで」というスタッフに「大丈夫なの?」と訝しむフワちゃん。そんな不穏なオープニングからスタートしたのが『ここにタイトルを入力』(フジテレビ)だ。元々昨年11、12月にフジテレビの若手実験枠「水曜NEXT!」で2回放送された番組が6回限定でレギュラー化されたもの。企画・演出は昨年の時点で入社わずか2年目だった原田和実。「水曜NEXT!」版では、「バイきんぐ小峠の今夜もグダグダ気分」と題した定番のひな壇トーク番組が行われた。
だが、様子がなにやらおかしい。実は先にひな壇のブロックの収録を済ませ、それに小峠が後からMC部分を即興で付け加えるというものだった。つまり「もしも、多忙でスケジュールが合わなかったら」という“実験”だ。レギュラー版初回は、「クイズ・ファイブセンス」というクイズ番組。しかし、回答者の小峠は『志村けんのだいじょうぶだぁ』(フジテレビ)の鏡コントのように鏡を挟んで顔半分だけを出しているシュールな画。しかも時折、番組とは関係のない意味不明のことをつぶやいている。これは「もしもダブルブッキングをしてしまったら」の“解決策”で小峠は同時に2つの番組収録に参加していると後から種明かしされるのだ。若手らしい瑞々しいトガッたアイデアと、それをツッコミ不在で実現させる大胆さは、かつてのフジテレビ深夜黄金時代を思い起こさずにはいられない。
レギュラー2回目が「フワちゃんの浅草のんびりツアー」だった。撮影データがなくなったという“設定”のため、街の定点カメラの映像から始まる。フワちゃんの声がうっすらと聞こえ、目を凝らすと人混みの中、遠くにど派手な格好をしたフワちゃんが見える。だからフワちゃんをキャスティングしたのか、と合点がいく。その後も、ユーチューバーの撮影に見切れている姿や、収録の模様を通行人がスマホで撮った映像、車載カメラの映像など、街中いたるところにカメラがある現代ならではの映像を駆使して構成。さらに、喫茶店ロケではそこでリモート会議している人の片隅に映りこんでいたり、体温を計るカメラの映像を使ったりとコロナ以後の世相も反映させている。途中、アダルトビデオで有名な「マジックミラー号」からの映像があったり、ゲストの美川憲一のSPがやたら物々しかったりと飽きさせない工夫も満載で、アイデア一本勝負に留まらない番組としての面白さがしっかりあった。野心と遊び心あふれる挑発的な番組だ。
INFORMATION
『ここにタイトルを入力』
フジテレビ系 全6回 スペシャル番組
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/kokonititle/index.html