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 平成28(2016)年には、金子修介監督のオリジナル脚本映画「スキャナー記憶のカケラをよむ男」に主演。萬斎が演じたのは、売れなくなったお笑いコンビの片割れだが、物や場所に残る記憶や感情を読み取る不思議な能力を持っている。若い女性に頼み込まれ、しぶしぶ、ある失踪事件の解決を助ける事になる。

 平成29(2017)年、篠原哲雄監督の「花戦さ」に主演。織田信長に中井貴一、千利休に佐藤浩市、豊臣秀吉に市川猿之助、前田利家に佐々木蔵之介らが顔を揃えた。萬斎は、利休に切腹を命じたのをきっかけに狂ったように人々を死に追いやる豊臣秀吉を、死を覚悟して活け花によって諫める華道家の池坊専好を演じた。

 平成31(2019)年に主演した「七つの会議」は、「半沢直樹」シリーズで知られる人気作家・池井戸潤の原作を、TBSのヒットメーカー・福澤克雄が演出するという鉄壁の組み合わせだった。社内のパワハラ事件をきっかけに、その裏にある偽装事件が浮かび上がるという企業ミステリー。萬斎は「ぐうたら社員」で万年係長だが謎を秘める八角民夫の役で、鬼の営業部長を香川照之、やり手の課長を片岡愛之助、そのライバルを及川光博が演じた。

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 こうやって映画での萬斎の役柄を並べて見ると、一つの共通する人物像が浮かび上がって来る。普段は飄々と生きていたり、頼りなかったり、どうしようもない生活を送っていたりするが、いざとなると非凡な知恵と能力を発揮する、といった人物像だ。

 その人物像は、狂言の中に庶民の代表として登場する「太郎冠者」の一面を捉えている。さらには、狂言では、万蔵家の伝統を受け継ぐ軽妙洒脱な芸風で演じて見せるが、その実は知的・理性的な人間である萬斎そのものとも共通している。

 少し人物像は違うが、「実は……」という点では、令和3(2021)年に、人気の「ドクターX~外科医・大門未知子」の第七シリーズで演じた役も同じだ。始めは主演の米倉涼子の敵役と見えたが、実は善玉というクセのある役。初めての民放の連続ドラマ出演だったが、しっかりと存在感を示した。

 意外なところでは平成28(2016)年公開の「シン・ゴジラ」にもかかわっている。ゴジラのモーションキャプチャーアクターを務めたのだ。モーションキャプチャーとは、人間の動きをデータに取り、コンピュータグラフィックのキャラクターに反映させるもの。かつて俳優が着ぐるみを着て動いたのに代わる技術だ。「シン・ゴジラ」のゴジラを、萬斎が着ぐるみを着て演じたようなものと言っても良いだろう。ここにも狂言の演技術が生きている。

野村萬斎 (新潮新書)

中村 雅之

新潮社

2022年3月17日 発売

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