急増する「侵入者」と性暴力、その裏に見える「国家」
20年が過ぎた。今再び、ヤノマミ族の保護区で「侵入者」が急増、凄惨な事件が頻発している。詳細は不明だが、ベネズエラではWi-Fiのパスワード変更に端を発した国軍による殺人事件が起き(3月20日)、背後にガリンペイロの存在が噂されている。ブラジル側でもガリンペイロから武器を渡された別の先住民がヤノマミ族の集落を襲った(4月11日)。
ヤノマミ族の渉外団体であるHUTUKARA(ヤノマミの言葉で「天」を意味する)はすぐに声明を出し、ガリンペイロと何もしようとしない政府を激しく非難した。
声明には保護区内での独自の調査結果も公表されている。それによれば、違法採掘は昨年より46%増加し、女性(少女も含む)に対する性暴力も起きているという。事実だとすれば、すぐに止めねばならない。少なくとも、信頼できる機関が早急に調査すべき事案である。
だが、国家の腰は重い。取り締まりが強化されたという話は伝わってこない。そればかりか、私には、国家の側が侵入者に加担しているようにしか見えない。ブラジルでは、現職の大統領が――明らかに憲法違反にもかかわらず――先住民の土地を開発することの必要性を堂々と口にし続けているし、一部の報道では大統領と内外の多国籍企業との間で「開発」に関する話し合いも進んでいるという。
長老が知らない「ガリンペイロ」以外の存在
無力感に苛まれる中、前述の長老の言葉を思った。確かに彼は、ガリンペイロを嫌っていた。しかし、長老は「ガリンペイロ」しか知らない。例えば、「ガリンペイロを運ぶ者」がいることを知らない。
1999年に、保護区にガリンペイロを運んでいたパイロットを取材したことがある。どこに運んだのか、そこには何人ぐらいのガリンペイロがいたのか、集落との関係はどうだったのか。違法行為であるはずなのに、私の問いに対して男は臆することなく答えた。男は羽振りが良さそうだった。「運搬」で儲けたカネでロライマ州の州都ボア・ビスタにナイトクラブとラブホテルを所有しているのだという。
別れ際、「店に来れば安くしとくぞ」と軽口を叩いたあと、半ば冗談半ば本気でこう言った。
「警察署長も州知事も、みな友人だ」