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《“原初の森”殺戮のリアル》ヤノマミ族を脅かす国家ぐるみの違法金採掘、森での殺戮、女性への性暴力…「私たちは森で平和に暮らしたいだけ」

2022/05/27

genre : ニュース, 国際

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 3月31日、南米アマゾンでベネズエラ軍と先住民族が、Wi-Fiをめぐって争い、先住民族4人が死亡したニュースが報じられた。

 この先住民族とは、アマゾンの密林で狩猟と採集をして暮らすヤノマミ族のことだ。2009年に放送されたNHKスペシャル「ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる」のディレクターで、150日間彼らと同居した国分拓氏は《Wi-Fiを巡って4人が死亡、違法金鉱夫が少女を強姦致死》ヤノマミ族から「文明」が奪い続けているものと「Wi-Fiが必需品になったワケ」で、外界からの影響で文明化していくヤノマミ族について、こう語っている。

「私は、ただただ、複雑な気持ちになる」

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 ヤノマミ族を蹂躙する「文明」の正体とは何者なのだろうか――。

ヤノマミ族 ©getty

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ヤノマミ族長老が絞り出すように言った「嫌いなもの」

 2008年にヤノマミ族の集落に同居したとき、長老のひとりに「嫌いなもの」を挙げてみてくれと頼んだことがある。悪い精霊の名前、彼らが忌避するもの(例えば「煙」)などがヤノマミの言葉で語られるのだろうと思った。

 だが、長老は予想に反する言葉を口にした。

「セリンゲイロ(ゴム採集人)、ファゼンデイロ(農園主)、マデレイロ(木材伐採人)、ペスカドール(漁民)、ガリンペイロ(鉱物採掘人)……」

 ヤノマミの言葉ではなかった。すべてポルトガル語。しかも、ヤノマミからすれば、森や川を越えてやってくる侵入者を言い表す言葉だった。

 中でも、ガリンペイロと口にしたときの表情が忘れられない。長老は、口を歪め、絞り出すような声音で、「ガリンペイロ」、と言った。

国分拓さん

 先住民保護団体によれば、90年代にヤノマミ族保護区に侵入したガリンペイロは推定で2~5万人。保護区に暮らすヤノマミ族の総数とほぼ同じか、それ以上である。

 その時代、ベネズエラ側では殺傷事件も起きている。1993年にはハシムーという集落で16人が殺されたのだ。私も、侵入の痕跡を見たことがある。1999年にブラジル側の保護区を飛び北部のスルクク集落と中部のホモシ集落を訪ねた際、森を削って作った違法の滑走路を眼下にいくつも見た。

 ブラジルの法律では先住民保護区に無許可で入ることはできない。当然、無断侵入も犯罪なら保護区での採掘も違法である。連邦警察が動いた。空からガリンペイロを探し出し、森から追い出そうとした。だが、見つかった金鉱山は数か所にとどまり、多くは警察のヘリの音を聞いて逃げたあとだった。警察が公開した映像には、唯一の成果と言えるガリンペイロの連行シーンが映っている。捕まったのはたったの3人。私の知る限り、大がかりな掃討作戦はその一度だけである。