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 長老が知らないのは運ぶ者だけではない。パイロットが口にした警察署長も州知事も知らない。保護区での資源開発を画策する大統領も知らない。黄金に投資して儲けている人も知らないし、黄金で身を飾る人たちのことも知らない。長老はいつも通りに狩りに行き、そこで生き続け、侵入者だけを憎んでいた。

金の価格急騰で増える「森での殺戮」

 長老の認識をはるかに超えて、奪う側はより強大で巧妙になっている。分業化と効率化が進み、奪われた資源は世界中に運ばれ、加工され、瞬く間に商品となっている。今や、私たちはクリックひとつで容易く貴金属を買うことができる。

 だが、その資源はどのようにとられたのか、私たちは深く考えようとしない。ヤノマミとガリンペイロの血腥い抗争と24金のリングは中々結びつかない。たとえそれが森での殺戮の末にもたらされたものであったとしても、自分で手を下したわけではないから心も痛まない。

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ヤノマミ族 ©getty

 現在、黄金の価格は急騰を続けている(この数年でグラム4000円が8000円になった)。おそらく、保護区に侵入するガリンペイロは、増えることはあっても減ることはないだろう。それだけではない。ガリンペイロが増えれば、ガリンペイロを運ぶ者や、黄金に投資する者や、黄金を貯め込む者や、黄金で身を飾る者も増えるだろう。そして、森の奥では先住民の土地が奪われ、汚され、病をうつされ、犯され、殺され続けるだろう。

 そう考えたとき、長老が口にしたガリンペイロという言葉は、果たして「ガリンペイロ」だけを意味するのだろうか、と思った。

2020年6月30日、ブラジル・ロライマ州、新型コロナが大流行するブラジル・ロライマ州で医療を受けるヤノマミ族の子ども ©getty

「私たちは森で平和に暮らしたいだけ」

 彼らは末端の実行者に過ぎないのではないか。ヤノマミの長老が口にする「ガリンペイロ」とは、森で生きるヤノマミ以外の人間、すなわち「私たちの側の全員」、なのではないか。

 2008年の同居後、何人かの若者が集落を出た。HUTUKARAに常駐する者もいれば看護助手になった者もいた。彼らはFacebookのアカウントを持っていた。3年後にレスポンスが来るようなやり取りではあったが、頻発する事件をどう思っているのか、メッセンジャーで質問を送った。7人中2人から返信が来た。2人ともほぼ同じ言葉を綴っていた。

「私たちは森で平和に暮らしたいだけなのだ。勝手に入ってこないでほしい。これ以上、土地を奪わないでほしい」

 その通りだ、と返信しようとして手が止まった。彼らからすれば、私もまた、加害側の一部なのだ。どんな返事をしても嘘くさくて、今も書けないでいる。